現場から見えてきた、“誰も取り残さない”まちづくりの条件とは?

現場から見えてきた、“誰も取り残さない”まちづくりの条件とは?

人口減少、高齢化が進む日本では、首都圏や便の良い都市部への人口集中が進んでいる。その中で、生活基盤を変えることが難しい高齢者等の不便な場所に留まった人がどう生活するのかといった問題が顕在化しており、まちづくりにおけるアクセシビリティは重要課題となっている。地域住民とともにまちづくりを共創する研究・フィールドワークを行っている厳網林教授と研究室の皆さんに、現在日本が直面しているまちづくりの課題について伺った。

厳網林(ゲン・モウリン)
慶應義塾大学・環境情報学部教授 工学博士 政策・メディア研究科委員
1982年中国 武漢測絵科技大学 土木測量学科卒業。1992年東京大学 工学系研究科博士課程卒業。持続可能な社会、都市の発展に関する研究を一貫して行ってきた。近年の気候変動緩和・適応、災害リスク低減に向け、国内・国外の低炭素都市、環境共生、レジリエンス、都市化と食料・エネルギー・水のネクサスに関する教育と研究プロジェクトを展開中。
研究室の皆さん
中山俊(なかやま・しゅん)
金森貴洋(かなもり・たかひろ)
春日裕信(かすが・ひろのぶ)
浅海須美子(あさのうみ・すみこ)

車移動前提のエリアが抱える高齢化問題

厳網林教授

――現在日本が直面しているまちづくりの課題とは

厳:日本政府は少子高齢化や地方の人口減少が進んでいることから、従来分散していた人の分布を集約するコンパクトシティということを提唱しており、当研究室でも10年前から研究を進めてきました。その結果わかったのが、コンパクトシティ自体は良いけれども、その移行過程に問題があるということ。

都心部であれば駅前に人を集約するのはそれほど難しくないかもしれませんが、地方はもっと山奥やアクセシビリティが悪いところに住まいが分布していますし、その人たちを全員一気に移住させるというのは無理があります。だから、残された人たちの暮らしをどうするのかということを考えなければいけませんが、郊外のバスはただでさえ赤字ですし、人が減っているのに本数を増やしてもらうのは難しい。かといって、短距離の小型カートや無人自動車、電気自動車のような新たなモビリティを導入して交通手段を変えるということもなかなかできていない。

つまり、まちづくりのバックボーンとなるインフラの設計ができておらず、先延ばしにしているのが今の状況です。国の政策とまちに暮らす人々の現実が乖離しているので、これをどう繋いでいくのかが課題だと考えています。

中山俊氏

中山:アクセシビリティが悪いということは、車移動が必要不可欠になるということも意味します。食料品を調達するのにも、車でスーパーまで行かなければなりません。当研究室では、横浜市のたまプラーザエリア周辺で「食料部門からのCO2排出量の調査」を行いました。横浜市は起伏が多い土地ですし、かなり広いところに住まいが分布しているので、食料調達で車を使う際のCO2排出量がかなり多いんです。

食料品へのアクセスとCO2排出量

さらに、年齢別でも差があり、高齢になるに従い徒歩圏内が狭くなるので車を使う率が高くなることもわかりました。

シナリオ別の徒歩圏

これは、CO2の排出量がカーボンニュートラルに悪影響を及ぼすだけでなく、高齢者が免許を返納した後に食料調達のためのアクセス手段がなくなるということも意味しています。

金森貴洋氏

金森:私は東日本大震災の後に気仙沼の復興に関して研究しましたが、そこでもやはり同じような課題が浮き彫りになりました。高齢化する中で高台に移住するのは、安全ではあるもののアクセシビリティが悪い場所に行くとも捉えることができます。車がないと生活ができない場所に移り住んで10年かけて復興した後には80歳になっている。どうやって生活をするのかという問題に直面します。

気仙沼の場合は移住した先の人口減少が深刻で、立地条件的に公共交通機関も通せません。こうなると結局せっかく時間をかけて生活基盤を築いた場所を捨てて、街中や津波のリスクが高い場所にまた移住しなければいけないということが起こります。

「逃げられない地元の人たち」と共に問題を認識し、
ソリューションを共創する

浅海須美子氏

――この課題を解決するにはどうしたら良いのでしょうか

金森:私はそこにくらす住民が、問題を認識していないというのが大きいと感じています。もちろん、災害が来たら安全なところに避難したいのは当たり前なんですが、移り住んだ先が日々の生活にこれだけ不便な場所です、数十年後こういった問題が発生しますということを認識したり議論したりするフェーズがあれば、もうちょっと良い感じに復興できたんじゃないか。そういった場を設けるのが私たちの研究の役目だと思います。

厳:住民、地域の企業、行政みんながステークホルダーであるという自覚を持って、議論して問題を体験する、実際に見に来る、共創するという場が欠かせませんし、それが当研究室の「アーバンリビングラボ」の目的でもあります。住民の皆さんや地域のキーマンに働きかけないと、行政もなかなか動いてくれないので、持続可能な取り組みにするには生活者の皆さんのまちづくりに関するモチベーションをどう上げていくかが大切です。

春日裕信氏

春日:私たちの研究の熱意が生活者の皆さんに伝わるというのも重要ですよね。実証研究をする上では数値化されたデータに向き合うことが多いんですが、地元の方とお話をすると彼らの思い出や、小さい頃はここはこうだったということがわかったり、データには出てこない情報が得られます。そうすると分析の視点が増え、愛着を持って研究に臨めるので、研究結果の質が高まり良いまちづくりにつながるという実感があります。

浅海:各地域には、そこにお住まいの方、そのエリアで事業を行っている事業者など、日々の生活や営みがある以上、簡単に逃げるわけにはいかない地元の人たちがいて、自分たちの住んでいるところをより良くしたいという思いを必ず持っています。そして、東急不動産のような総合デベロッパーも、そうした地元の人たちと向き合いながら、地域をより良くしていくために取り組みを続けています。でも、具体的な施策についてのアイデアに詰まっていたり、うまく課題をイメージしきれていなかったりするので、そこに大学やリーディング企業が入り共創のお手伝いをするのが「アーバンリビングラボ」の役割です。課題を抽出してみんなで考える場を作り取り組むことで、全員がステークホルダーとなってまちづくりに関わるということをしています。

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