近年の社会環境には、少子高齢化の加速による著しい人口減少や気候変動などの影響から、我々人間の生存をおびやかすような危機が生じている。その影響は、さまざまな都市や企業にも波及している状況だ。こうしたなかで2017年度より政府が推進する「スマートシティ」は、都市の持続可能性に好循環をもたらす取り組みとして注目されている。
では、都市の持続可能性を高める「次世代スマートシティ」とは、具体的にどのようなものだろうか。また、スマートシティの発展に不可欠な要素のひとつである「産学官の連携」には、どのような成功ポイントがあるだろうか。
今回は、人口減少社会のなかで都市が直面する多岐に渡る複雑な問題に対して、多面的かつ学際的な視点で実証研究を行うキーリー アレクサンダー 竜太氏に話を聞いた。
| キーリー アレクサンダー竜太(きーりー・あれくさんだー・りょうた) 九州大学工学研究院 環境社会部門 都市・交通工学研究室/都市研究センター 准教授 株式会社aiESG 取締役/CRO 都市が直面するエネルギーの枯渇、環境汚染、人口減少、災害などの複合的な社会課題に対し、都市工学や経済学など多面的かつ学際的なアプローチから実証研究を行っている。ESG分析やエネルギー技術(e.g. 再エネ, 水素, DAC-U)の社会・環境・経済影響評価をはじめ、人口減少社会における持続的発展、サステイナブル投資やグリーンボンド、企業活動の分析を通じた新たな都市のあり方の提案などを研究テーマとする。博士号(Ph.D.)。 |
都市の持続可能性を実証し続ける「三層構造」

――次世代スマートシティが「都市の持続可能性を高める」という役割を果たし、地域や企業などに好循環をもたらし続けるうえで、どのような要素が必要でしょうか。
まず、「持続可能性の実証可能性」というのが、大きなテーマになってくると思います。これは東急不動産さまの事例でも評価させていただいたのですが、本当に持続可能な都市は、我々のQOL(Quality of Life)やWell-being※1 を維持するものでなければなりません。
※1 Well-being(ウェルビーイング):身体的・精神的・社会的に満たされた「良い状態」を指す概念で、単なる健康や経済的豊かさだけでなく、生活の質や幸福感まで含めて捉える考え方。
そのために必要となる人々および企業の生産・消費などは、「経済の資本」「人の資本」「自然の資本」という三層構造の上で行われる形です。この三層構造が統合的に機能し、長期的な価値を創造できる都市が、持続可能性を実証しているスマートシティだと思います。
「スマートシティ=街の効率化」ではない

――スマートシティは、岸田政権の「デジタル田園都市構想」をきっかけに社会的関心が高まったこともあり、世間一般では「スマートシティ=デジタルによる効率化」の印象がとても強いように感じます。これは、政府が推進するDX(デジタル・トランスフォーメーション)にもいえることです。インタビュアー自身もスマートシティに居住していますが、そこへのイメージはやはりデータの利活用による「市民の健康管理サポート」や「除雪車の位置および稼働状況の共有」といったデジタル領域が中心です。キーリー様は、スマートシティにおける「デジタルによる街の効率化」についてどのようにお考えでしょうか。
スマートシティで使われているデジタル技術や、効率化・利便性向上といったものは、あくまで入口にすぎません。現在の我々が直面しているのは、単なる非効率の問題ではなく、生存をおびやかすような危機的問題です。そこでデジタル技術などを使い「この産業団地を効率化しました」というだけの都市は、ただより効率的に衰退するだけになる可能性が高いと思います。
そこでデジタル技術の重要性に着目するのであれば、データ駆動※2 ですね。データと科学にもとづいて地域全体で価値を創造することが、都市を持続させるうえでとても大事だと考えます。データを通して見えないものを見ていく姿勢が必要であり「やってみよう」ではなく「やらなきゃいけない時代」が目の前に来ているところです。
※2 データ駆動: 経験や勘に頼るのではなく、収集・分析したデータを根拠として意思決定や施策立案を行う考え方やアプローチ。データドリブン。
――都市の持続可能性を本気で高めるうえでは、「あり方」の上に「やり方」が乗るという二層構造でさまざまなプロジェクトを展開する必要があると思います。キーリー様は、持続可能性の高いスマートシティの「あり方」「やり方」について、どのようにお考えでしょうか。
日本のスマートシティにおける最初のフェーズでは、AIやIoTなどの技術があって、それをどう使うかとか何をやるかっていう“やり方”ですね。「methodology※3 」のところにずっと焦点があたっていたと思います。
でも本当に問われるべきことは、「その技術を使ってどうやって社会を築くか?」という“あり方”寄りの「ontology※4 」です。つまり、実際のスマートシティに共通する”あり方”として、どのような要素が必要かという本質的な議論が求められています。しかし、日本ではこうした視点に立った先駆的事例がまだ少ない状況です。
※3 methodology(メソドロジー):研究や分析を行う際の考え方や手法の体系を指し、「どのような手順・枠組みで進めるか」を示す方法論。
※4 ontology(オントロジー):対象となる物事や概念をどのように定義し、相互の関係性をどう整理・体系化するかという考え方や枠組み。
産学官連携における「空間的近接性」の重要性
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