スマートシティが信頼性や持続可能性を高めるうえでは、大学(アカデミア※1)による学術的貢献が不可欠だ。また、近年のビジネス環境では、さまざまなサステナビリティ関連規制への対応が求められるなかで、大学が企業に対して実務的価値を提供する事例も生まれている。
では、大学がスマートシティおよび企業に提供できる学術的貢献および実務的価値には、具体的にどういったものがあるのだろうか。また、規制対応を行う企業がスマートシティに参画した場合、どのような好循環が生まれるのだろうか。
今回は、九州大学発のスタートアップ企業・aiESGでの取り組みを通して、アカデミアと社会の架け橋になるべく意欲的に活動を行うキーリー アレクサンダー 竜太氏に話を聞いた。
※アカデミア:大学や公的研究機関における研究職のこと。民間企業の研究職との対比でよく使われる表現。
| キーリー アレクサンダー竜太(きーりー・あれくさんだー・りょうた) 九州大学工学研究院 環境社会部門 都市・交通工学研究室/都市研究センター 准教授 株式会社aiESG 取締役/チーフリサーチャー(CR) 都市が直面するエネルギーの枯渇、環境汚染、人口減少、災害などの複合的な社会課題に対し、都市工学や経済学など多面的かつ学際的なアプローチから実証研究を行っている。ESG分析やエネルギー技術(e.g. 再エネ, 水素, DAC-U)の社会・環境・経済影響評価をはじめ、人口減少社会における持続的発展、サステイナブル投資やグリーンボンド、企業活動の分析を通じた新たな都市のあり方の提案などを研究テーマとする。博士号(Ph.D.)。 |
持続可能な都市に対して「大学だからこそ」提供できるもの

――スマートシティの持続可能性を高めるうえで、大学が提供できる価値と役割は、今後さらに大きくなっていくと思います。そこで教えていただきたいのが、持続可能な都市に対して「大学だからこそできること」には、どのようなものがあるのかという点です。
大学だからこその役割として最も大きいところは、「信頼資本※2の提供者」という点です。
たとえば、サザン鳥栖クロスパーク※3とは、九州大学発のスタートアップ企業・aiESGでご一緒させていただきました。その評価を行ううえで大切だったのは「数値を出す」のはもちろんのこと、その数値が「いかに信頼にもとづく手法によって出されているか」です。
それはつまり、数字をひとり歩きさせず、トレーサビリティ※4を高い精度で保つことを意味します。
また大学には、10年、20年先について、常に将来の予測やバックキャスト※5をしながら見ていく特徴があります。長期的な視点は、都市の持続可能性を評価するうえで非常に重要です。こうした理由から、大学が提供する数字は、スマートシティという社会資本※6がステークホルダーとの信頼関係を築き、中長期的に持続・発展するうえで大切な役割を担います。
※2 信頼資本:いわゆる社会関係資本のこと。人と人の関係性を資本として捉える考え方。米国の政治学者であるロバート・パットナム氏は、社会関係資本を「個人間のつながり、すなわち社会的ネットワーク、およびそこから生じる互酬性と信頼性の規範」と定義。
※3 サザン鳥栖クロスパーク:GREEN CROSS PARKのプロジェクトのひとつ。佐賀県・鳥栖市との官民連携事業として、産業団地整備を推進中。詳細はこちら
※4 トレーサビリティ:トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせた言葉。追跡可能性。
※5 バックキャスト:未来のある時点について目標や理想的な状態を設定し、その達成に必要なステップを逆算して計画立案すること。バックキャスティングとも呼ばれる。
※6 社会資本:人々の生活を守り、暮らしを豊かにするさまざまな施設のこと。電力・上下水道・道路などのライフライン、河川堤防、公園など。
九州で進行中の都市実験を通して、見えてきたもの

――aiESGとしてサザン鳥栖クロスパークの評価を行うなかで、分析結果について改めて感じた気づきなどはありましたか。
サザン鳥栖クロスパークの分析を実際に行ってみて、可視化することの重要性を改めて実感しました。これはまさに、私たちaiESGが持つ課題意識「実態の見えない問題は、誰にも解決できない。」につながるものです。
まず、産業団地のような開発案件では、その取り組みを行う都市に対して、人・人工物・自然の視点から「それぞれがどう変わっていくのか?」を見ていく必要があります。
サザン鳥栖クロスパークの場合は、産業団地の開発を行うことで、自然資本※7における関係生態系※8の一部に減耗が見られるという分析結果が見えてきました。
これは一見、マイナス影響とも捉えられると思います。
しかし実際は、分析を通してホットスポット※9を見つけるという意味、機能になります。分析を通して、たとえば雇用や教育水準の向上といった多くの経営効果が得られるともに、緑地面積や生態系などの一部減耗といったホットスポットがわかると、そこに対する具体的な対応策も見えてくるわけです。
今回の評価・分析を通じて、「ホットスポットとして、こういうところを見ていかなければならない」という重点的課題がより明確になったことは、実務的価値の提供という点でとても大きな意味があったと思います。
なお、数値化された情報は、開示を行うことで金融市場や行政への訴えかけにもなりますし、社会的な訴求にも活用できるものです。企業による定量的な情報開示には、非常に大きな意義があると思います。
※7 自然資本:森林、土壌、水、生物資源など、自然によって形成される資本(ストック)のこと。
※8 関係生態系:企業経営や都市開発などの諸活動と関係する生態系の枠組み。
※9 ホットスポット:CO2などの温室効果ガスの排出量が多い排出源のなかで、削減に向けて特に重点的に取り組むべきもの。
スマートシティへの参画は「リスクヘッジ」である

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