2021 年、岸田内閣が掲げた「デジタル田園都市構想」により、スマートシティへの関心が一気に高まりました。
全国の自治体がデジタル技術を活用した構想を打ち出し、行政サービスや防災、交通、地域 DX など、さまざまなアイデアが生まれました。
しかし、アイデアの多くは、既存の街をデジタル技術で高度化する取り組みでした。
少子高齢化と東京一極集中が進む中、本来、地方のスマートシティ化は、単なる街のデジタル化ではなく、「人が集い、産業と文化が交わり、あらたな価値が生まれる場作り」となるべきなのです。
実際、世界のスマートシティを見渡すと、それは単なる都市のデジタル化ではないことがわかります。
後述する、シンガポールやフィンランド、ドイツなどの事例に目を向けると、スマートシティが「都市開発」の枠を超え、都市における産業競争力の基盤として機能していることが分かります。
つまり、街が企業活動の延長線上にあり、都市そのものが生産と研究のプラットフォームとして設計されているのです。
そこで、本稿では、スマートシティがどのように産業を変えるのか?その実像を、事例を交えて解説します。
世界の事例に学ぶ ― 街と産業が融合する現場
スマートシティを実際にどのように設計すべきか、その要点を解説する前に、世界の先進事例を見ていきましょう。
おそらく、事例をみるだけでも多くの気づきがあるはずです。
シンガポール:都市が産業ラボに変わる
シンガポール西部のジュロン・イノベーション・ディストリクト(JID)は、研究から量産までを一体化したスマート産業都市です。
「スカイ・コリドー」と呼ばれる、歩行者や自転車専用シャトルが区域内を走り、地下物流網を構築することで、交通渋滞を減らし、地上の空間を有効活用しています。
地下物流網は、将来的には自動搬送車(AGV)が走行し、貨物を各企業の玄関口まで配送します。
また、デジタルインフラの面では、産業用途に特化した5G ネットワークが敷設されていて、スマートファクトリー内での機械間の通信やデータ送受信を可能としています。
さらに、エリア全体のエネルギー消費を監視し、消費を最小化するための集中管理を都市全体で行なっています。
研究開発や人材教育の面でも、シンガポール科学技術研究庁が複数の研究所を構えていて、企業との共同研究によって技術開発をしています。
また、南洋理工大学は、自動運転車の試験・研究センター※を設置し、新技術を日々テストしています。
こんな環境が実現されていることもあり、ヒュンダイやシーメンスなどといったグローバル企業が、インテリジェント製造工場を構えていて、「街が実験室」となる新しいモデルを形成しています。
- 自動運転車試験研究センター(CETRAN):南洋理工大学(NTU)、シンガポール陸上交通庁(LTA)とJTCコーポレーションと共同設立
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