2026年1月、ラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー見本市CES 2026で、ドイツの総合電機大手シーメンス(Siemens AG)のローランド・ブッシュCEOが基調講演に立ち、世界的な半導体メーカーエヌビディア(NVIDIA Corporation)のジェンスン・フアンCEOとともに「Industrial AI Operating System」構想を発表しました。工場の設計から運用、サプライチェーンに至るまで、AIがエンド・ツー・エンド※1 で制御する時代の到来を宣言したのです。
※1 エンド・ツー・エンド:設計から製造、運用、サプライチェーンまで、一連の工程を分断せずに一貫してつなぐこと。全体最適の実現に向けて用いられる概念。
実は、その前年のCES 2025で、エヌビディアのフアンCEOは、AIの次のフェーズは「フィジカルAI」であると明言していました。私自身その場にいて、発表を聞いていましたが、高性能なAIがクラウドから現場に降りてくるという変化に驚かされました。
生成AIが「考えるAI」だとすれば、フィジカルAIは「動かすAI」です。工場の中でロボットや設備がリアルタイムに現場の状況を認識し、自ら判断して動く。そんな世界が、もはやコンセプトではなく実装フェーズに入りつつあります。
そこで、本稿では、台湾の電子機器受託製造(EMS)大手フォックスコン(Foxconn Technology Group)やシーメンスの最先端スマート工場事例を具体的に紐解きながら、日本の製造業がこの潮流にどう向き合うべきかを考察します。
工場におけるフィジカルAIとは

フィジカルAIというキーワードはすでに話題になっているので、ご存知の方も多いと思いますが、まずおさらいとして「工場にフィジカルAIが入ると何が変わるのか」を3つのキーワードで示します。
1つ目は「デジタルツイン」です。工場全体を仮想空間に再現し、設備の配置変更や工程の改善を、実機を動かす前にシミュレーションを行い、物理的な移動や設置なく確認ができる仕組みです。
2つ目は「自律型ロボティクス」。従来の産業用ロボットは人間がプログラムした動作を繰り返すだけでしたが、フィジカルAI搭載のロボットはカメラやセンサーで環境を認識しながら、未知の状況にも自ら適応することができます。
3つ目は「AIブレイン」。生産実行システムやIoTセンサーのデータを統合し、工場全体をひとつの生命体として、AIがその頭脳となり最適化し続ける統合的な意思決定基盤です。
では、この3つがどう組み合わさって実際の工場で機能しているのか、フォックスコンとシーメンスの事例で見ていきましょう。
世界の事例に見る、AIスマート工場の潮流

デジタルツインで世界中の工場を「複製」するフォックスコン
フォックスコンは、世界最大の電子機器受託製造企業です。iPhoneをはじめとするスマートフォンやサーバー、ゲーム機などを、世界24カ国・230以上の拠点で製造しています。
このフォックスコンが、エヌビディアと共同で取り組んでいるのが「FODT(Fii Omniverse Digital Twin)」と呼ばれる生産プラットフォームです。これは、一言でいえば、工場をまるごとデジタル空間に「コピー」する仕組みであるとも言えます。
具体的にどう使われているかを見てみましょう。
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