DXロードマップとは、DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するために、何をいつまでにどうするのかを時系列にまとめた計画イメージです。理想的なビジョンに向かうための順序や優先度を可視化したものになります。
DXロードマップがあれば、改革の途中で迷いが生じた場合でも、DXの意義や方向性を見失うことなく、目指すべきビジョンに向かって突き進むことができます。
今回は、DXロードマップが必要な理由や作り方、成功のポイントを解説します。
DXロードマップとは?

DXロードマップとは、自社が目指すDXの実現に必要な施策や期間、優先度などを可視化した計画イメージです。DXは、経営戦略やビジネスモデル、組織などを見直し、顧客に新たな価値や体験を提供し、競争優位性を確立するための変革となります。そのため、一朝一夕で実現できる簡単な取り組みではありません。
自社のDXを成功させるためには、DXロードマップを作成し、理想とする未来に向かって愚直にPDCAを回し続けることが大切です。
DXロードマップが必要な理由

DXロードマップが必要な理由は、DXの成功確率を高められるからです。
DXを成功させるには、本質的な目的を見失わず、中長期的に改革を継続していく必要があります。しかし、取り組みの途中で方針がぶれたり、想定外の課題により停滞したり、当初の目標と乖離したゴールにたどり着いたりするリスクがあります。
取り組みを成功に導くためにも、DXロードマップを作成し、継続的に活用していきましょう。
本記事では、以下の資料を参考にしながら、DXロードマップの必要性やDXの取り組み方をわかりやすく解説していきます。
参考:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)『DX実践手引書 ITシステム構築編 完成 第 1.1 版』
参考:経済産業省『デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会 WG1 全体報告書』
DXロードマップを作成するには?

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)『DX実践手引書 ITシステム構築編 完成 第 1.1 版』
DXロードマップは、自社のDXを成功させるための重要な計画書や道標です。DXロードマップを作成するには、DXの全体像を理解する必要があります。
DXのおおまかな全体像は、以下の3点で構成されます。
- ビジョンの策定と共有
- ロードマップの作成
- マイルストーンの設定
以下、それぞれ詳しく解説していきます。
目指すべきビジョンの策定

DXの取り組みを進めるための第一歩は、DXで目指すべきビジョンを策定することです。社内の幹部を巻き込んで、組織の将来像について徹底的に議論することが大切です。デジタル活用を踏まえ、10年先、20年先のビジョンについて話し合いましょう。
デジタル活用による革新や、自社が目指すビジョンを組織全体に浸透させること、さらにそれを支えるガバナンスを機能させることは、決して容易なことではありません。
社内にはさまざまな現場があり、顧客や取引先も存在します。企業が社会に与える影響も大きいです。
「なぜデジタル化しなければならないのか?」
「デジタル化を進めて自分たちがどのようになるのか?」
「その結果、自社や顧客はどう変わるのか?」
このような疑問や不安に答えられるような明確なビジョンを策定しましょう。
ここで注意したいのは、ビジョンとはいつまでにどれだけの利益を計上するといった売り上げ目標ではなく、社会や顧客にどのような価値を提供する企業になるのか、といった方向性を示すものという点です。
たとえば、アメリカのApple社では、「テクノロジーで何百万もの人々の生活を変える」というビジョンを掲げ、その実現に向けてMacやiPhone、iPadのような製品がテクノロジーの進化を牽引してきました。このように社内だけでなく、顧客や取引先も納得・賛同できるようなビジョンが、DXの推進力となります。
明確なビジョンを策定したら、まずは社内に広く共有し、経営幹部と現場とが対話を重ねながら、社内文化、人事制度、マネジメントやガバナンス、そして具体的な戦略に整合させていきましょう。ビジョンを共有し、関係者の賛同や協力が得られることで、DXは大きな推進力を得ることができます。
ロードマップの作成

策定したビジョンを実現するためには、「いつまでに何を達成し、今何をするべきなのか?」という改革すべき項目や期間、優先度などを決める必要があります。これを設計図のようなイメージに落とし込むことが、DXロードマップの作成です。
ロードマップを作成するには、目標となる未来を起点にして、そこから現在へ向かって逆算的に振り返る「バックキャスト」という手法が有効です。目指すべきビジョンを実現するための具体的な戦略や計画を立案し、いつまでに、どのような状態になっていたいのかを、ロードマップ上の目標に設定していきましょう。
DXで一定の成果をあげている企業では、トップレベルでビジョンとそれに基づく戦略ロードマップを具体的に策定し、それを社内文化や人事制度などを通じて社員に浸透させる仕組みを作っている事例が多いです。つまり、ロードマップの作成にあたっては、DXが絵空事や他人事にならないよう、現場社員も巻き込んで成熟度合いをあげていくことが重要となります。
例えば、ある企業では経営層が合宿して作成したビジョンに基づき、各事業責任者が自分の事業のロードマップを作成します。これを経営層と繰り返し議論を交わすことで、現場の納得感の高いロードマップを作成することができます。また、DXは現場で実施される取り組みも多いため、現場ごとの達成度を評価したり、進捗を管理するために、マイルストーンを設定することも大切です。
マイルストーンの設定

マイルストーンとは、途中経過の達成度を評価したり、進捗を管理したりするためのチェックポイントです。マイルストーンを設定することで、DXが社内全体でどのように取り組まれているのかを確認することができ、現場の改革に対するモチベーションを維持できるというメリットがあります。
先ほどご紹介したある企業では、ロードマップの各マイルストーンを実現するためのプロジェクトに、現場社員が手を挙げることにより、組織横断で参加できる仕組みを整備しました。現場社員が自ら手を挙げることは、昇進などの社内人事で評価される制度にもなっています。
現場社員の個々の行動を促し、マイルストーンの達成を評価する仕組みは、ロードマップの活用とビジョンの浸透や実現に大きく寄与します。また、現場社員が達成に向けた積極的な取り組みを行うことで、ボトムアップによる自発的な変革が自然発生するというメリットも期待できます。
業務プロセスや既存製品・サービスの変革、あるいはまったく新しいビジネスモデルの創出には、全社一体となってDXに取り組む必要があります。ビジョンの策定と共有、ロードマップの作成、マイルストーンの設定を行うことで、自社のDXが成功に近づくことができるでしょう。
DX成功のための4つのポイント

DXの実現には、ビジョンの策定やロードマップの作成、マイルストーンの設定の他にも、重要な要素が求められます。成功確率を向上させるために、以下の4つのポイントを意識して改革に取り組みましょう。
- 挑戦しやすい組織環境
- 内製開発力の強化
- DXの実践を支える人材
- アジャイルマインド
それぞれを解説します。
挑戦しやすい組織環境
1つ目のDX成功のポイントは、挑戦しやすい組織環境です。
企業によって市場環境や事業内容、組織構造、予算、人材、目指すビジョンが異なるため、DXを成功させるための汎用的な勝ちパターンは存在しません。自社が理想とするDXに近づくためには、挑戦しやすい組織環境を整え、仮説と検証、改善を愚直に繰り返すことが大切です。
挑戦しやすい組織環境を作るためには、以下の2つの条件が必要です。
- 経営層によるDXへの強い情熱が示されること
- 失敗を否定しない文化
DXに対する情熱や危機感、強い想いが経営層(CEOやCIO、CDXO)に伴っていなければ、競争優位性を生むような大きな変革は起こせません。経営層はビジョンを策定するだけでなく、繰り返しDXへの強い情熱を示し、組織全体にビジョンを浸透させる努力と、適切な投資判断を行うことが大切です。
また、汎用的な勝ちパターンが存在しない以上、DXの取り組みは失敗に終わる可能性もあります。成功をつかむためには、多くの失敗を乗り越えなければなりません。しかし、失敗を否定する文化が存在すると、改革に対する姿勢が委縮してDXの成功率は大幅に低下します。社員一人一人が失敗や批判を恐れずアイディアを出し合い、仮説と検証を繰り返し、改善を積み重ねることが、DX成功の最大の秘訣ともいえます。
日ごろからトライ&エラーを繰り返すことを経営者が推奨することで、社員が失敗を恐れずに挑戦でき、失敗を否定しない文化が生まれます。挑戦しやすい組織環境を作り、DXの成功確率を向上させていきましょう。
内製開発力の強化

2つ目のDX成功のポイントは、内製開発力の強化です。
DXではデータ分析やITツールを活用し、持続的に改革を進める必要があります。DXロードマップに記したマイルストーンを迅速に達成するためにも、自社で一定の内製開発力(社内開発力)を備えることは大きな強みになります。
多くの企業では、自社内に開発部門を持たず、外部ベンダーに開発や保守を委託する傾向があります。しかし、開発を外部に委託することで、トライアルからのフィードバックや、社内ニーズの伝達や実装に余計な時間がかかることがあります。また、社内ニーズを社外ベンダーに理解してもらうことも難しく、その結果として打ち合わせの手間や開発コストが多く発生する場合もあります。
DXを柔軟かつスピーディに実現するためには、内製開発力を強化することが大切です。しかし、非IT企業が内製開発力を持つことは難しいケースも考えられます。開発部門を持つことによるコストアップも大きな負担となるでしょう。また、経済産業省の推計では、2030年ごろにIT人材の不足が40~80万人の規模となることが試算されていて、システム開発ができるIT人材を確保することも容易ではありません。
参考:経済産業省『参考資料(IT人材育成の状況等について)』
ただし、DXとIT活用は切っても切り離せません。自社で開発部門を持っていないということは、同業他社でも開発部門を持たないケースが多いことでしょう。自社の競争優位性を確立するためにも、内製開発力の強化の第一歩として自社の開発部門の創設とIT人材の採用・育成を進めてみてはいかがでしょうか?
DXの実践を支える人材
3つ目のDX成功のポイントは、DXの実践を支える人材です。
ロードマップを作成しても、DXの実践を支える人材がいなければ成功できません。DXの中核を担う人物には、事業・技術・経営の3つの観点に通じ、リーダーシップを発揮できることが大切です。
このような人材を「ヤタガラス人材」と呼びます。ヤタガラスとは、日本神話に登場する太陽の化身で三本の足を持つカラスです。
つまり、ヤタガラス人材とは、
- 経営の言葉で経営者を説得できる
- 事業の言葉で事業部門を巻き込める
- 技術の言葉で開発メンバーと実現可能性の議論ができる
という3つの役割を果たせる人材のこと。1人でこのような役割を果たせる人材が社内にいない場合は、それぞれに精通した人材を集めてチームを作ることでも対応できます。社内に適した人材がいない場合は、新たな人材の採用や育成が必要な場合もあるでしょう。
DXを成功させるためには、慣れ親しんだ業務フォローやITツールを変える場合があります。この時、経営層にはその必要性と予算を理解してもらう必要があります。また、現場の反発が予想される場合でも、その必要性を納得してもらったり、割り切ってもらったりするための説得力が必要です。開発メンバーには、新たな技術対応の必要性や実現方法について話し合う必要もあるかもしれません。
DXの実践を支える人材が活躍することで、成功の確率は格段に向上します。そのためには、日ごろから積極的な人材採用や育成、活用を行っていくことが大切です。
アジャイルマインド

出典:経済産業省『デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会 WG1 全体報告書』
4つ目のDX成功のポイントは、アジャイルマインドです。
| アジャイルマインドとは、従来のように、問題を分析して最初にゴールを決め、そのゴールを固定して、そこに向けて論理的に解決していくという実践の仕方ではなく、継続的な価値の実現のために、「現状を観察して」「失敗を恐れず」「問題を見つけ」「それに対して、仮説を立て」「関係者と協力しながら」「実際に試して」「試した結果、得られた結果を検証して」「それを元に問題や仮説の見直しを行う」ことを実践できるマインド。 |
つまり、仮説と検証を繰り返しながら、より適切なゴールを目指していくという考え方です。
DXではビジョンを策定し、ロードマップを作成したら、マイルストーンを設定していきます。しかし、当初目指していたゴールが常に正しいものであるとは限らず、改革の途中で軌道修正を行う場合があります。また、計画していたやり方やツールも途中で見直す必要が出てくる可能性もあるでしょう。
このような変更が必要になった際、アジャイルマインドがなければ変化に対応することが難しく、DXの取り組みが頓挫する可能性が高まります。DXでは最初に決めたゴールを必ず達成することより、必要に応じてより適切なゴールを目指すことが重要。改革を進めてみなければ見えないことも多く、ITツールやデジタル環境の進化は目まぐるしいほどに早いからです。
アジャイルマインドを持つことで、市場や顧客、社会が求める新しい価値や体験を届けることにも繋がります。既存の考え方ややり方に固執せず、変化に柔軟に対応しながら、DXの成功を目指していきましょう。
DXロードマップの実践手法

経済産業省では、DXに取り組む実践的な手法として、以下の2つの方法を紹介しています。
- GQM+Strategiesグリッド
- 戦略技術ロードマッピング
それぞれを解説します。
GQM+Strategiesグリッド
1つ目の実践手法は、GQM+Strategiesグリッドです。
GQM+Strategiesグリッドとは、各組織をつなぐ組織目標(ゴール)と戦略を木構造で表現する
ことで整合性を確認しやすくしたものです。目標連鎖を「見える化」することで、組織間の目標と戦略のつながりが論理的に確認できるので、ロードマップ作成にも役立てることができます。
各組織の戦略を決める根拠は、事実と仮定で分けて整理します。また、目標達成度を測るための指標も決めることで、どの戦略がうまくいかなかったのかを見極められるようになります。
戦略技術ロードマッピング
2つ目の実践手法は、戦略技術ロードマッピングです。
トップダウンで作成する「ロードマップ」では、対話による組織的知識創造は生まれにくいです。一方、戦略技術ロードマッピングは、ステークホルダー(経営者、DX推進部門、現場など)間の対話ツールとなるため、組織的知識創造が生まれやすいというメリットがあります。
戦略技術ロードマッピングでは、ステークホルダーに問いを共有します。これにより、DXに対する関心を生み、多様な発想が生み出され、目指すビジョンやゴールが確認しやすくなります。
GQM+Strategiesグリッドと戦略技術ロードマッピングについては、以下の資料で詳しく解説されています。
参考:経済産業省『デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会 WG1 全体報告書』
まとめ DXロードマップについて

今回は、DXを成功に導くためのDXロードマップについて解説しました。
DXロードマップとは、自社の理想的なDXを実現するために必要な施策や期間、優先度などを可視化した計画イメージです。DXは、経営戦略やビジネスモデル、組織体制などを見直し、顧客に新たな価値や体験を提供することで、競合に負けない競争優位性を確立するための変革となります。DXは一朝一夕で実現できるような簡単な取り組みではないため、迷ったり挫折したりすることがないように、ロードマップを作成して取り組むことをおすすめします。
なお、DXの成功確率を高めるためには、ビジョンの策定と共有、ロードマップの作成、マイルストーンの設定が重要です。他にも、挑戦しやすい組織環境や内製開発力の強化、DXの実践を支える人材、アジャイルマインドも欠かせない要素となります。
自社のDXを進めるためには、まずはビジョンの策定と共有、そしてロードマップの作成から始めていきましょう。DXの進め方に迷った際は、本記事を再びご参照ください。
GREEN CROSS PARKのDX

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