工場移転には、移転の目的を明確にすることと、綿密な計画が必要です。移転には大きなコスト負担がかかるだけでなく、移転前後に業務が停滞してしまうリスクや、従業員や取引先に大きな影響を与える可能性があるためです。
しかし、工場移転によって将来の事業環境への変化に対応しやすくなったり、生産効率の向上や事業の継続性強化などの大きなメリットも期待できます。
今回は、工場移転のメリットや必要なステップ、大切なポイントを解説していきます。
工場移転のメリット

まずは工場移転のメリットを整理しておきましょう。工場移転には、生産性向上から事業の持続性強化まで、企業に大きなメリットをもたらす効果があります。
- 生産能力の増大
- 生産効率の改善
- 安全性や働きやすさの向上
- 事業の継続性強化
- DXやGXの加速
新しい工場では敷地を拡大し、最新設備を導入できるため、生産能力の増大が期待できます。既存工場では建物構造やレイアウト、生産設備などの制約により、今以上に増産を行うことが難しい場合もあります。新工場への移転により生産能力を増大できれば、将来の需要拡大にも柔軟に対応できます。また、生産工程やレイアウト、従業員の導線を見直すことで、生産効率の大幅な改善も期待できます。動線短縮や作業ロスの削減、設備稼働率の向上により、生産コストを大幅に削減することも可能です。
さらに、新工場は最新の建築基準に対応しているため、安全性や働きやすさが大幅に向上します。空調や照明、休憩スペースなどの環境改善により従業員の満足度が高まり、採用力や定着率の向上にも貢献します。加えて、災害リスクの低い地域への移転や耐震構造の強化、自家発電設備などの非常用電源の確保などを行うことで、BCP(事業継続計画)対策を強化できる点も重要なポイントです。自然災害やインフラ障害の発生で生産ラインが停止しても、早期の復旧が目指せるので、事業継続性の向上につながります。
さらに、工場移転によりIoTやAIを活用した最新設備や通信インフラ、再エネ電力の活用などを進めることで、DX※1 やGX※2 を加速させることも可能です。DXやGXは、企業の競争優位性と持続可能性を高め、長期的な成長や収益力の向上を目指せる取り組みです。工場移転を計画する際には、DXやGXの加速もぜひ目指していきましょう。
※1 DX(デジタルトランスフォーメーション):デジタル技術を活用した業務・事業の変革
※2 GX(グリーントランスフォーメーション):脱炭素社会実現に向けた産業・経済の構造変革
工場移転のステップと大切なポイント

工場移転の大まかなステップは以下の通りです。
- 移転の目的を明確にし、大まかな移転計画を練る
- 移転先の調査や比較、補助金などの検討を行う
- 移転先候補を絞り、業者選定や詳細な移転計画の策定を行う
- 補助金や税制優遇制度に必要な手続きを行っておく
- 用地を取得し、新工場の建設を行う
- 必要に応じて旧工場の設備を新工場に移設する
- 新工場の試運転を行う
- 新工場の本格稼働を開始する
- 旧工場の閉鎖や処分を行う
それぞれを大切なポイントとともに解説します。
① 移転の目的を明確にし、大まかな移転計画を練る

工場移転で最も大切なポイントは、「なぜ移転をするのか?」という目的を明確にすることです。工場移転の目的にはさまざまなものが考えられ、達成したい目的は複数に及ぶ場合も多いです。工場移転の目的が明確でなければ、工場移転に費やした膨大な資金と時間、労力が無駄になる可能性があります。
工場移転には、主に以下のような理由が考えられます。
- 生産能力の拡大
- 最新設備への更新
- 生産や物流の効率化
- 環境問題への対応
- 人材の確保
- 生産コストの削減
経営者や工場長、関係部門の責任者などを集め、工場移転の目的を明確にしていきましょう。工場移転の目的が明確に定義できれば、その後の移転計画の策定もスムーズに行えるようになります。移転に必要な用地の広さや工場の大きさ、導入すべき設備、確保すべき人員数なども明確になっていくからです。大まかなスケジュールと移転予算も検討し、移転の目的を達成するためのプロジェクトの全体像をまとめていきましょう。
また、工場移転には生産ラインの一時的な停止や在庫の調整、移転スケジュールの遅れ、従業員や取引先への影響、自治体や近隣住民への配慮など、さまざまなリスクや影響が考えられます。移転の規模が大きいほどリスクや影響も大きくなりますので、大まかな移転計画を練る際に考慮に入れておきましょう。
② 移転先の調査や比較、補助金などの検討を行う
移転の目的や大まかな移転計画が整理できたら、移転先の調査と比較を行いましょう。用地の価格や広さ、インフラの整備状況、物流アクセス、従業員や取引先への影響、近隣住民や自然環境への影響、自治体の法規制(工場立地法や都市計画法)などの条件が用地によって異なるため、複数の移転先候補を比較することが大切です。移転先が遠方になる場合、従業員の引っ越しや新たな取引先の確保が必要になる場合もあります。
各自治体では、工業団地などの工場建設用の用地を分譲している場合もあります。工業団地は、工場建設用に地盤が整備され、交通の利便性が高く、主なインフラが整備済みで、近隣住民や自然環境への影響も配慮されています。そのため、用地の取得や工場建築の許可が得やすく、工場移転をスムーズに行える可能性があります。工場移転を検討する際は、各自治体が分譲する工業団地も候補に入れておきましょう。
なお、各自治体では、工場の新設や移設、増設を行う企業に対し、その費用の一部を補助したり、不動産取得税や法人事業税などの減免を行ったりする助成制度を設けている場合も多いです。補助金や税制優遇制度を利用するためには、用地の取得や建物の建設、設備の導入などを行う前に、自治体への相談や申請が必要になる場合がほとんどです。自治体の助成を受けるためには事前の着工が禁止されている場合が多いので、移転先の調査や比較をする際に、同時に補助金などの検討と自治体への事前相談も行っておきましょう。
③ 移転先候補を絞り、業者選定や詳細な移転計画の策定を行う

複数の移転先について調査・検討を行ったら、移転先の候補を絞り込みましょう。移転先を絞り込む過程で、工場移転のための企画や設計を行う建設会社などを検討する必要があります。業者によって工場移転に必要な費用が変わりますので、複数の業者から提案や見積もりを提示してもらい、詳細な移転計画の策定を行うことが大切です。
ただし、自治体などの補助金を利用する場合は、用地の取得や工事の着手、設備の購入などは行わないでください。補助金を受けるためには、自治体への事前相談や申請を先に行う必要があるからです。
また、工場の移転先によっては、既存の社員や取引先に大きな影響を与える可能性があります。旧工場からの距離が遠い場合、既存社員には単身赴任や引っ越しが必要となるでしょう。既存の取引先には、移転先での取引が可能かどうか、難しい場合は新しい取引先を確保できるかが重要です。
信頼できる業者が選定できたら、さらに詳細な条件やスケジュールを詰めていきましょう。新工場の建設イメージや内部のレイアウト、インフラ整備、旧工場からの設備の移動、新工場の試運転、本格的な生産の切り替えのタイミングなど、移転に伴う生産への影響を最小限にするために綿密な計画が不可欠となります。
計画に不備があったり、移転スケジュールが遅れたりすると、移転に必要なコストが想定以上に膨らむ可能性があります。また、生産能力の低下や生産ラインの停止が長期間にわたった場合、自社の業績に深刻なダメージを与える可能性もありますので、移転に伴うリスクの分析と対策を検討しておくことも大切です。
④ 補助金や税制優遇制度に必要な手続きを行っておく
移転先を絞り込んだ段階で、その地域で活用できる補助金や税制優遇制度に関する事前相談を自治体に行っておきましょう。補助金や税制優遇を活用するためには、各自治体が定める条件(敷地面積や建物の大きさ、設備の種類、従業員数など)を満たす必要があります。
工場の移転計画がまとまったら、早めに自治体へ補助金などの申請を行いましょう。自治体に移転計画と助成が承認されたら、移転計画を進めることができます。補助金や税制優遇制度を活用するためには、移転に着手する前に自治体の承認を得る必要があります。
その後の移転計画をスムーズに進めるためにも、できるだけ早めに自治体への事前相談や申請を行っておくことが大切です。
⑤ 用地を取得し、新工場の建設を行う

詳細な移転計画を策定し、補助金などの申請が完了したら、建設会社との契約と用地の取得を行います。用地の取得と建設の準備が整ったら、新工場の建設を始めましょう。
工事中は、工場移転に関連する業者と定例会議や現地での立ち合いなどを行い、スケジュールの進捗や品質のチェックをこまめに行うことが大切です。建物やインフラ、設備を後から変更することは難しいケースも多いため、当初の移転計画通りに進んでいるのかを随時確認していきましょう。
新工場に必要な新しい生産設備や生産資材、オフィス什器なども新工場の建設に合わせて調達をしておきましょう。また、新工場への移設によって旧工場を閉鎖する場合は、旧工場の敷地や建物の売却、賃貸借についても早めに検討しておくこともおすすめします。
⑥ 必要に応じて旧工場の設備を新工場に移設する
旧工場で使用している設備の中で、新工場でも使用するものは移設も行いましょう。重量の重い設備や精密機械、生産に必要な資材は、特に慎重な移設作業が必要です。必要に応じて専門技術を持った業者に移設を依頼すると良いでしょう。
ただし、新工場での本格的な生産活動が開始されるまでには、旧工場の生産は完全に停止しない場合も多いです。新工場と旧工場の切り替えは綿密に計画を行い、場合によっては段階的な移設が必要なこともあるでしょう。
旧工場の設備を新工場に移設する際は、長期間にわたる生産能力の低下や生産ラインの停止が発生しないよう注意が必要です。一時的に生産ラインが停止する場合、新工場への移設が開始される前に旧工場で増産を行い、出荷できる在庫を調整しておくことも検討していきましょう。
⑦ 新工場の試運転を行う

新工場の建設と生産設備の搬入・設置などが完了したら、新工場の生産ラインの試運転を行って想定通りの生産能力が発揮されるのかを確認しましょう。試運転の際には、設備機器のメーカーに立会いを依頼し、生産設備の細かな設定や調整を行いながら、正常動作や不具合の有無などをチェックすることが大切です。
また、実際に工場内で仕事をする従業員向けの操作訓練や安全教育、作業導線の確認なども実施しておきましょう。より効率的な生産能力を発揮するためにも、本格稼働に向けた試運転で課題や不具合をしっかりと洗い出し、必要な対策や修正を行っておきます。新工場で新しい機械や慣れない導線で作業をする従業員のために、特に安全対策の徹底した確認が必要です。
⑧ 新工場の本格稼働を開始する
新工場の試運転が完了し、設備の動作や従業員の安全性に問題がなければ、新工場での本格稼働を開始します。本格稼働後も、生産品質や歩留まり、作業導線などを監視し、問題なく稼働できているかどうか確認しましょう。生産資材の調達から完成品の出荷や納品に至るまで、想定通りの生産効率が達成できているかも確認することが大切です。
新工場に関する問題点を早期に把握し、速やかな改善につなげるために、各現場の責任者を集めて定期的なミーティングを行いましょう。新工場全体でPDCAを回し続けることで、さらなる生産性や安全性の向上が期待できます。
⑨ 旧工場の閉鎖や処分を行う

新工場への移転と新しい生産ラインでの本格的な稼働が完了したら、旧工場の原状回復や売却、賃貸、解体などの手続きを開始しましょう。古い建物や設備、資材などを処分する場合は、周辺地域や地球環境へ十分な配慮を行うことが大切です。特に有害な物質を含む場合は、法令に遵守した処理方法が求められます。
旧工場の敷地や建物が売却できる場合、新工場の移転費用の一部を賄える可能性があります。新工場の投資回収スピードを早め、キャッシュアウトも抑えることができるので、工場の閉鎖や処分については早めに検討を行っておきましょう。
まとめ 工場移転について

今回は、工場移転のメリットや必要なステップ、大切なポイントを解説しました。
工場移転には、生産性向上から事業の持続性強化まで、企業に大きなメリットをもたらす効果があります。自治体の補助金や税制優遇制度を活用すれば、工場移転に伴う費用を抑えることも可能です。ただし、用地の取得や新工場の建設を行う前に、早めに自治体へ相談や申請を行う必要があります。
工場移転の本質的な目的を明確に定義し、必要な用地の選定や建物の建設、新しい生産設備の導入など、さまざまな検討を計画的に行っていきましょう。また、工場移転を機にDXやGXを加速させ、自社の競争優位性の確保と持続可能性の向上も目指していくことが大切です。
GREEN CROSS PARKについて

東急不動産が展開する「GREEN CROSS PARK(グリーンクロスパーク)」は、日本の産業と地域の未来を拓く、新しい発想の「産業まちづくり」事業です。GX・DX・まちづくりの力を柔軟に組み合わせることで、産業団地を起点とする持続可能な街づくりを実現し、産業振興と地域共創に貢献します。
地域の特性とニーズに応じた多彩なプロジェクトを全国で推進中。次世代の産業と暮らしを支える拠点づくりが、各地で動き始めています。