事業再構築補助金は経済産業省が設けていた中小企業向けの補助金事業です。ポストコロナの経済社会の変化に対応して思い切った事業転換に取り組む中小企業等を、対象にしていました。事業再構築補助金は第13回公募をもって終了しており、現在は後継制度である中小企業新事業進出促進補助金が開始されています。今回は事業再構築補助金と現在使える中小企業新事業進出促進補助金について解説します。
事業再構築補助金とは

事業再構築補助金とは、ポストコロナに対応し新市場進出、事業・業種転換、事業再編や規模の拡⼤等を⾏う中小企業規模の事業者を支援する補助金制度でした(正式名称:中小企業等事業再構築促進事業)。
※本制度は、現在新規公募を行っていません。
補助内容としては「思い切った」事業再構築に要する設備投資や外注費等を補助していました。例えば、新市場進出、業態転換、事業・業種転換、事業再編、国内回帰やサプライチェーン強化など。公募ごとに「枠」や上限額・補助率・対象経費が定められていました。
補助金を利用するには、「事業再構築指針※1 」に定める事業再構築に該当する事業を行っており、業種ごとに定められた資本金や従業員数で定められる中小企業の範囲に該当することが求められます。申請にあたっては、⾦融機関等や認定経営⾰新等⽀援機関の確認を受け、さらに“補助事業終了後3〜5年で付加価値額の年平均成⻑率3〜4%(事業類型により異なる)以上増加、⼜は従業員⼀⼈当たり付加価値額の年平均成⻑率3〜4%(事業類型により異なる)以上増加の達成”という要件がありました。
補助の対象となる経費は事業拡大につながる事業資産への投資につながっているものでした。例えば、
・建物費
・機械装置・システム構築費、クラウドサービス利用費、運搬費
・技術導入費、知的財産権等関連経費
・外注費、専門家経費
・広告宣伝・販売促進費
・研修費
などが挙げられます。
※1 事業再構築指針:経済産業省が定める「事業再構築」の定義や要件を示したガイドライン。新市場進出、事業転換、業種転換、事業再編、国内回帰、地域サプライチェーン維持・強靱化の6類型を規定しています。
「事業再構築補助金」制度創設の背景

事業再構築補助金が創設されたきっかけとしてはコロナ禍です。コロナ禍で売上が急激に減少、あるいは以前の水準まで戻らない可能性がある中で、多くの中小企業が従来のビジネスモデルのままでは経営継続が難しい状況に直面しました。令和2年度第3次補正予算の説明資料では「当面の需要や売上の回復が期待し難い中」という言葉があり、やはりコロナ禍でダメージを受けた中小企業の支援が補助金設立当初の大きな目的でした。
その後、コロナ禍を経てさらに従来の需要構造は大きく変わりました。例えば店舗型ビジネスの売上が落ちる一方でECや非対面サービスの割合が増えるといった消費者のライフスタイルや価値観の変化、コロナによる外出制限によるテレワークの普及等、社会の構造変化に対応できなければ競争力を失ってしまうため、事業転換の必要性が企業に求められていました。事業再構築補助金の制度上でも「新市場進出」「業態転換」を明示しています。
この政策軸を引き継いだ形で、後継の「中小企業新事業進出促進補助金」では、企業の成長・拡大に向けた新規事業への挑戦を行う中小企業を支援するという姿勢を明確に打ち出しています。そのため、「新事業進出要件」という要件を補助金の申請に必須としています。
事業再構築補助金の後継「中小企業新事業進出促進補助金」とは

中小企業新事業進出促進補助金とは2025年度に新設された補助金制度です。現在第2回の公募が終了しています。国によると以下のように定義されています。
“新事業進出補助金とは企業の成長・拡大に向けた新規事業への挑戦を行う中小企業等を対象に、既存の事業とは異なる、新市場・高付加価値事業への進出にかかる設備投資等を支援する補助金です。”
引用:独立行政法人 中小企業基盤整備機構 中小企業新事業進出補助金『はじめての方 新事業進出補助金とは』
中小企業新事業進出促進補助金の対象となるのは「企業の成長・拡大に向けた新規事業への挑戦を行う中小企業等」ということで、幅広い中小企業が対象となります。従来の事業再構築補助金では、申請する補助金に種類がありそれぞれ細かい要件が設けられていましたが、それが撤廃され、成長・拡大に向けた新規事業であれば、申請しやすくなったのが大きな変化です。
具体的に対象となる事業としては下記のようなイメージが示されています。
・機械加工業でのノウハウを活かして、新たに半導体製造装置部品の製造に挑戦
・医療機器製造の技術を活かして蒸留所を建設し、ウイスキー製造業に進出
中小企業新事業進出促進事業の補助金額

中小企業新事業進出促進事業では企業の規模に応じた補助金額・補助金率が定められています。
| 従業員数 | 補助上限金額 |
| 従業員数20人以下 | 2,500万円(3,000万円) |
| 従業員数21~50人 | 4,000万円(5,000万円) |
| 従業員数51~100人 | 5,500万円(7,000万円) |
| 従業員数101人以上 | 7,000万円(9,000万円) |
()内は「補助事業終了後3~5年の事業計画期間において①事業場内最低賃金+50円、②給与支給総額+6%を達成」した事業者に支払われる額です。つまり、大幅な賃上げを達成した事業者には追加で500〜2000万円、補助上限額が引き上げられます。
また、上記に記したのは補助上限金額ですが、今回は補助下限額も750万円と定められています。ある程度大規模な投資を行う事業者を対象にしていることがわかります。
中小企業新事業進出促進補助金の必須7要件

中小企業新事業進出促進補助金では、下記7要件を全て満たす事業が対象になります。枠が撤廃されたものの、むしろ申請時に満たす条件は厳しくなった印象です。具体的に解説します。
※未達の場合の補助金の返還有無や返還範囲は、未達となった要件の種類や内容により異なります。
1.新事業進出要件
「新事業進出」というのが補助金の重要な要素です。新事業進出要件をクリアするには下記3つの条件を満たさなければいけません。
・製品等の新規性要件
・市場の新規性要件
・新事業売上高要件
既存の事業とは異なる新たな製品・サービス・市場へ進出することが求められます。主たる事業を変更する必要はありませんが、これまでとは異なる市場に新事業がターゲッティングしているかが重要になります。
また、新事業売上高要件に関しては下記の要件を満たす計画を立てる必要があります。
1.事業計画期間最終年度において、新たに製造等する製品等の売上高もしくは付加価値額が、応募申請時の総売上高の10%、もしくは総付加価値額の15%以上を占める計画を策定すること
2.応募申請時の直近の事業年度の決算に基づく売上高が10億円以上であり、かつ、同事業年度の決算に基づく売上高のうち、新事業進出を行う事業部門の売上高が3億円以上である場合、事業計画期間最終年度において、新たに製造等する製品等の売上高又は付加価値額が、応募申請時の当該事業部門の売上高の10%又は付加価値額の15%以上を占める計画を策定すること
つまり、企業規模が小さければ会社に対する売上の割合、大きければ事業部に対する売上の割合になるということです。
具体的な新事業進出例としては以下です。
・飲食店が冷凍食品の製造・EC販売に参入
・印刷業者がデザインの知見を活かして、Webデザイン事業を開始
・旅館が宿泊施設運営の知見を活かして、ワーケーション向けコワーキング事業を開始
・航空機用部品を製造していた事業者が、航空機部品の製造で培った技術を活かして、新たに医療機器部品の製造に着手
・ガソリン車の部品を製造していた事業者が、車両部品の製造で培った技術を活かして、新たに半導体製造装置の部品の製造に着手
・注文住宅の建設を行っていた事業者が、建設業で培った木材の知見を活かして、新たにオーダーメイドの木材家具の製造に取り組む
・販促物の印刷を行っていた事業者が、既存事業での顧客対応力を活かして、新たに食堂等の内装工事事業に取り組む
・アプリやWEBサイトの開発を行っていた事業者が、既存事業でのノウハウを活かして、地域の特産物等を取り扱う地域商社型のECサイトの運営に取り組む
一方、下記のようなケースは当てはまりません。
・アイスクリームを提供していた事業者が、新たにかき氷を販売する
・自動車部品を製造する事業者が顧客からの要望でさらに小型の部品を開発
・衣料品製造業者が手作業から機械製造に転換
・これまで東京でサービス提供していた事業者が大阪で新たに展開する
2.付加価値額要件
付加価値額要件とは以下です。
“補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、付加価値額(又は従業員一人当たり付加価値額)の年平均成長率が4.0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること”
引用:独立行政法人 中小企業基盤整備機構 中小企業新事業進出補助金『はじめての方 新事業進出補助金とは』
3.賃上げ要件
賃上げ要件は未達の場合、補助金の一部または全額の返還が求められる可能性がある、極めて重要な要件です。補助事業終了後3〜5年の事業計画期間において、以下のいずれかの水準以上の賃上げを行う必要があります。
①一人当たり給与支給総額の年平均成長率を、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上増加させること
②給与支給総額の年平均成長率を2.5%以上増加させること
①は中小企業新事業進出促進補助金で新たに加わった基準で、②は事業再構築補助金でもありましたが当時は2.0%でした。基準がより厳しくなったということがわかります。
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構 中小企業新事業進出補助金『はじめての方 新事業進出補助金とは』
4.事業場内最賃水準要件
事業場内最賃水準要件も未達の場合、補助金の返還が求められる可能性がある重要な要件です。補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、下記の最低賃金を満たす必要があります。
・毎年、事業場内最低賃金が補助事業実施場所都道府県における地域別最低賃金より30円以上高い水準であること
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構 中小企業新事業進出補助金『はじめての方 新事業進出補助金とは』
5.ワークライフバランス要件
ワークライフバランス要件により、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表していることも義務付けられています。次世代育成支援対策推進法とは、厚生労働省が定める少子化対策や育児と両立した柔軟な働き方の推進について定めた法律です。
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構 中小企業新事業進出補助金『はじめての方 新事業進出補助金とは』
6.金融機関要件
補助事業の実施にあたり金融機関等から資金提供を受ける場合は、資金提供元の金融機関等から事業計画の確認を受けていることが必要となります。
参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構 中小企業新事業進出補助金『はじめての方 新事業進出補助金とは』
7.賃上げ特例要件
賃上げ特例要件も未達の場合、補助金返還義務が生じる極めて重要な要件です。「中小企業新事業進出促進事業の補助金額」の項で説明した上限額の補助金を受けたい場合、応募申請時に「大幅な賃上げに取り組むための計画」を記入します。それを元に、採択の回避を審査し、採択されれば上限額支給されますが、仮に未達の場合は交付された補助金は全額返還となります。
条件を達成するには、①事業場内最低賃金+50円、②給与支給総額+6%の両方の達成が必須になります。
申請方法とスケジュール、必要書類

新事業進出補助金の申請方法とスケジュール、必要書類は以下のようになっています。
参考:独立行政法人中小企業基盤整備機構『中小企業新事業進出促進補助金公募要領(第2回)』
1.gBizIDプライム取得
まず、経済産業省が設けているgBizIDプライム※2 を取得します。これがないと補助金申請システムにアクセスできず申請ができません。新事業進出補助金はオンライン申請のみで受け付けています。取得には審査(本人確認・会社情報確認)があり、発行に数日〜1週間程度かかります。
※2 gBizIDプライム:法人・個人事業主向けの共通認証IDで、補助金申請など行政手続きに使用される。
2.事業計画書作成
事業計画書は下記のような内容が必要です。電子申請システムの様式に沿って記入しましょう。
・既存事業の内容
・補助事業の具体的取組内容
・現状分析
・新規事業の新市場性・高付加価値性
・新規事業の有望度
・事業の実現可能性
・公的補助の必要性
・政策面
・補助対象予定経費
・収益計画
3.期限内に提出し結果を待つ
新事業進出補助金の公式サイトに告知された提出期限内に、指定の様式に則って提出します。上記各項目で厳格な審査が行われます。
4.事業実施
交付決定後、計画に沿って事業を実行します。
5.実績報告と補助金交付
交付決定日から14か月以内に補助事業を完了する決まりです。補助事業完了後30日以内、もしくは補助事業完了期限日のいずれか早い日までに補助事業実績報告書を提出する義務があります。この期限を過ぎると交付決定が取り消しとなるため注意しましょう。
実際の支出内容、成果の報告、領収書・証憑類の添付が必要です。審査を通れば補助金が支給されます。 なお、補助金は原則後払い方式のため、実績報告後に支払いとなります。
必要書類一覧
新事業進出補助金の電子申請時に添付する必要書類は以下です。
・決算書
・従業員数を示す書類(労働者名簿等)
・収益事業を行っていることを説明する書類(確定申告書別表一等)
・金融機関による確認書
・リース料軽減計算書
・リース取引に係る宣誓書
・再生事業者であることを証明する書類
・賃上げ計画の表明書
新事業進出補助金の採択率と難易度

新事業進出補助金の第1回公募では応募件数3,006件に対して採択数1,118と、採択率は37.2%でした。
注目すべきは製造業の採択率の高さです。617件中320件が採択されており、半分以上の確率で採択されていることになります。一方、宿泊業・飲食サービス業は24.4%となっており、わかりやすい新事業・新製品を打ち出しやすい業界が有利であることが見て取れます。逆に言えば全ての業界に対して、既存の製品やサービスの改良等ではなく新しい市場の開拓につながっており、しかもそれが黒字化できるビジョンが示されていることが必須と言えます。
新事業進出補助金は変化に挑戦する企業のための制度

新事業進出補助金は変化に挑戦し、企業を成長させる意欲のある企業のために設けられた制度です。事業再構築補助金よりも満たすべき要件は厳しくなっています。行おうとしている事業が要件を満たす事業であり、さらに審査時に実現性が高いと客観的に判断できる事業である必要があります。まずは事業計画の実現性が高いと感じてもらえる事業計画書を作成することが第一歩です。
※本記事は執筆時点の情報に基づいています。補助金制度は変更される可能性があるため、最新の公式情報をご確認のうえ、申請や活用の是非については、各社の状況を踏まえてご検討ください。
GREEN CROSS PARKについて

東急不動産が推進する産業まちづくりプロジェクト「GREEN CROSS PARK(グリーンクロスパーク)」は、産業団地の集積メリットをさらに高めた次世代型の産業エリアです。
従来の産業団地が持つ 初期投資の抑制・物流効率化・BCP強化・人材確保 といった利点に加え、まち全体に 先進的なDX基盤とGX対応インフラ を備える構想が進められています。高速通信環境や自動運転技術の先行整備により、企業間の連携強化や業務効率化を実現。さらに、再生可能エネルギーの導入やカーボンニュートラルを見据えた取り組みを通じて、サステナブルな産業活動を支援します。DX・GX時代にふさわしい高い競争力を備えた事業展開を、ここに集う企業に提供する産業プラットフォーム ——それが GREEN CROSS PARK です。