営業DXとは、データやデジタル技術を使ってビジネスモデルや企業文化、営業プロセスなどの変革に取り組み、顧客目線で新たな価値を創出することです。これからの営業現場は、より先進的で高い生産性を実現し、自社の持続可能性や競争力を高めることが求められます。
今回は、営業DXが求められる理由やメリット、進め方、成功に導くための3つのポイントを解説します。
営業DXとは

営業DX(Digital Transformation)とは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや企業文化を変革し、顧客に新しい価値や体験を提供することで、自社の競争力を高める取り組みを言います。ここで大切なことは、デジタル技術やAIツールなどの導入は、営業DXを実現する手段の一つにすぎないということです。
営業DXで実現したい本質的な目的や価値を明確にしなければ、最新のツールを導入しても仕事のやり方が変わっただけになってしまいます。営業DXを成功させるには、目的を明確に定め、小さなことから改革に取り組み、効果的な手法を見つけながら全社に適用することが大切です。
営業DXは一朝一夕で実現できるものではありませんので、腰を据えてPDCAサイクルを回し続ける必要があります。
営業DXが求められる理由

営業現場にDXが求められる主な理由は以下の5つです。
- 市場環境や顧客行動が変化しているから
- 営業人材が不足しているから
- 経験や勘を継承するのが難しいから
- スキルの底上げで生産性が向上するから
- 競合他社に遅れると挽回が難しいから
それぞれを解説します。
市場環境や顧客行動が変化しているから

1つ目の営業DXが求められる理由は、市場環境や顧客行動が変化しているからです。
インターネットの普及により、顧客はさまざまな情報を検索して商品やサービスを選択できるようになっています。また、口コミや評判、SNS、比較サイトなどを利用して、すでに候補の絞り込みを行っている場合も多いです。そのため、ホームページやSNS、顧客データの分析、ITツールの活用などを通じて、効率よく顧客にアプローチしなければ商談の機会を得ることが難しくなりました。
電話や飛び込み、DMによる営業は、顧客の警戒心や不快感を高め、商談機会を損失するリスクがあります。また、余計な営業コストがかかり、時間効率も悪化することから、営業リソースの消耗も激しいです。
このような市場環境や顧客行動の変化に対応するためには、従来式の営業手法から脱却し、データ分析やITツールを活用した効率的なアプローチと顧客目線での新たな価値の提供が必要となっています。
営業人材が不足しているから
2つ目の営業DXが求められる理由は、営業人材が不足しているからです。
日本は、2008年をピークに人口減少社会に突入しています。特に生産年齢人口と言われる15歳~65歳の人口は、すでに1995年をピークに減少に転じており、2050年には5,275万人(2021年よりもマイナス29.2%)にまで減少すると見込まれています。
出典:総務省『令和4年版白書 第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~』
多くの企業で人手不足が叫ばれる中、営業人材の不足も深刻化していくと予想されます。これからは少ない営業人数で効率的に成約に導くことが、企業業績の向上のためには欠かせない取り組みになっていきます。
少ない営業人材で最大限の成果を導き出すためには、データ分析やITツールを活用した営業の効率化が欠かせません。また、非効率な活動を無くして余計な経費をかけず、顧客が本質的に求める価値や体験の提供に力を注ぐ必要があります。そのためには、営業DXによる営業手法の改革と、顧客との関係性の強化がますます重要になっていきます。
経験や勘を継承するのが難しいから

3つ目の営業DXが求められる理由は、経験や勘を継承するのが難しいからです。
これまでの営業部門は、ベテラン営業マンやトップ営業マンの経験や勘が高く評価され、属人的な仕事のやり方で業績を向上させていました。しかし、こうした属人的な営業手法は、営業マンの定年や退職により企業の業績を悪化させるリスクを高めます。
企業業績の安定的な向上を目指すためには、営業マン個人に蓄積される経験や勘を頼りにせず、再現性の高い営業アプローチ手法の確立や、データ分析による根拠のある提案力の強化が必要となります。
スキルの底上げで生産性が向上するから
4つ目の営業DXが求められる理由は、スキルの底上げで生産性が向上するからです。
営業DXによって、経験や勘に頼らないアプローチ手法や提案力が確立できれば、一般的な営業マンのスキルが底上げされます。効率的で効果的な営業活動が行えることで、個々の営業マンの生産性が向上し、企業業績の安定的な向上も期待できます。
一部の営業マンに頼るのではなく、営業部門としての組織力で勝負することが大切です。業務負荷の偏りや責任の重さも分散され、意思決定の時間や案件のリードタイムも短縮します。スピーディでタイムリーな営業活動ができるようになることで、商談回数や成約率の向上が期待できます。
競合他社に遅れると挽回が難しいから

5つ目の営業DXが求められる理由は、競合他社に遅れると挽回が難しいからです。
営業部門だけでなく、DXはあらゆる業界や部門でトレンドとなっているキーワードです。経済産業省では、すでに2018年からDXの必要性を訴えており、DXによる業務変革の重要性は年々増しています。
参考:経済産業省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』
また、DXの重要性の高まりから、経営者に求められる対応を取りまとめたデジタルガバナンス・コードは定期的に最新版にアップデートされています。
参考:経済産業省『中堅・中小企業等向け『デジタルガバナンス・コード』実践の手引き2.1』
参考:経済産業省『デジタルガバナンス・コード3.0 ~DX経営による企業価値向上に向けて~』
このような傾向から、すでに先進的な企業ではいち早く営業DXが推進されています。市場環境や顧客行動の変化に敏感に反応している企業は、データ分析やITツールを活用することで自社の商品やサービスを効率的に顧客にアピールしています。例えば、膨大なデータの中から商談確率の高い見込み客をツールで検索し、購入率の高い商品やサービスを最適なタイミングでお知らせすることで顧客との接点を深め、成約率を高める取り組みを自動化することも可能です。
一方で、自社の営業DXの取り組みが遅れている場合は注意が必要です。営業DXは一朝一夕で実現できるものではないからです。本質的な目的を探り、営業手法や体制を見直し、PDCAを回し続ける必要があるため、営業DXの実現には時間と労力がかかります。自社の営業DXが競合よりも大きく出遅れている場合、後から挽回することが難しくなる可能性があります。
営業DXは、すでにその必要性や有効性を検討する段階になく、すぐに着手すべき最優先事項として認識することをおすすめします。競合他社に対する優位性を確立するためには、すぐにでも営業DXの取り組みを開始することが大切です。
営業のIT化と営業DXの違い

営業DXについて深堀する前に、ここで営業のIT化と営業DXの違いについてまとめておきます。

営業のIT化は、ITツールの導入が目的であり、ITツールを活用することで、事務作業の軽減や営業アプローチの効率化を目指すものです。営業手法を抜本的に見直したり、顧客との関係性を強化したりすることまでは求めていないのが一般的。そのため、営業のIT化は自社や自社の営業マンのために行うものであり、市場環境や顧客行動の変化には対応しきれない可能性があります。
一方、営業DXは、営業手法の再構築や、顧客に対して最適な価値や体験を提供することが目的です。データ分析やITツールの活用が目的ではなく、競合に負けない売れる仕組みや組織を作ることが営業DXの本質と言えます。
営業DXの5つのメリット

営業DXの主なメリットは以下の5つです。
- 業務効率や生産性が向上する
- 属人化を防ぎ営業スキルが底上げする
- 顧客に新たな価値や体験を提供できる
- 見込み客や成約率の増加が期待できる
- セキュリティリスクが低減する
それぞれを解説します。
業務効率や生産性が向上する
1つ目の営業DXのメリットは、業務効率や生産性が向上することです。
営業DXでは、既存の業務のやり方に合ったITツールを導入するのではなく、より効率的な営業手法に変革するためにITツールを導入します。例えば、リードナーチャリングの自動化やオンライン商談、契約書の電子化などを導入することにより、従来の営業手法よりも生産性の向上が期待できます。
また、グループチャットや商談管理システムを活用することで、会議や日報作成などに費やす時間が減り、営業組織の意思決定スピードの向上や、情報共有の活性化にも効果を発揮します。営業DXでは、業務の効率化や生産性向上で浮いた時間を、得意先への手厚いフォローや新規顧客の開拓などに注ぐことができるようになるので、限られた人数でもさらなる売上向上に寄与することができます。
属人化を防ぎ営業スキルが底上げする

2つ目の営業DXのメリットは、属人化を防ぎ営業スキルが底上げすることです。
営業DXでは、一部の営業マンの経験や勘に頼るのではなく、顧客行動の分析情報や成約率の高いアプローチ方法などを営業部門全体で共有し、すべての営業メンバーのパフォーマンスが向上する仕組みを作ります。営業DXを推進することで、データの共有や集計、検索、活用が容易になるため、見込み客の情報や提案資料、商談の進捗状況、成功事例、失敗事例、テンプレート化されたメール文などが広く共有され、勝ちパターンの見える化や提案の仕組み化が営業部門全体で進みます。
営業の属人化を防ぐことで、情報共有の活性化や営業メンバーの連帯感の醸成が進み、営業スキルの底上げが期待できます。営業スキルの底上げで成果が出せるようになると、仕事に対するモチベーションや営業マンの定着率のアップも期待できます。
顧客に新たな価値や体験を提供できる
3つ目の営業DXのメリットは、顧客に新たな価値や体験を提供できることです。
顧客からの評価を本質的に向上するには、顧客が求めるものをタイムリーかつ適切に提案することが大切です。そのためには、顧客の行動情報や購買履歴、トレンド、環境変化などをキャッチアップし、データ分析に基づいた根拠のあるアプローチが欠かせません。
営業DXでは、営業マンの経験や勘に基づいた提案ではなく、さまざまなデータから顧客が求めるものが「見える化」されたり、次の購買行動を促すフォローが自動でメール送信されたりして、顧客に寄り添った提案ができるようになります。また、顧客の口コミや評価、購買後の行動などを分析することで、商品やサービスの使いやすさや不満が改善され、顧客に新しい価値や体験が提供できるようにもなります。
例えば、ネットでの注文時に『よく一緒に購入される商品』をリコメンドすることで、顧客の買い忘れの防止と売上向上が期待できるようになります。また、商品到着後に使い方を解説するメールが自動送信されることで、商品やサービスをより便利に利用してもらうことができ、次の商談機会や顧客フォローのタイミングを営業マンが逃さずに動けるようになります。
見込み客や成約率の増加が期待できる

4つ目の営業DXのメリットは、見込み客や成約率の増加が期待できることです。
営業DXでは、ITツールの導入や顧客行動の分析により、効率的なリードジェネレーション※1や確度の高いリードナーチャリング※2、適切なタイミングでのクロージング※3が可能になります。これにより見込み客の母数や商談回数が増加することだけでなく、見込み確度の高い顧客をクロージングすることができるようになるので、商談の成約率も増加することが期待できます。
やみくもに訪問や電話で顧客にアプローチしたり、強引に成約に持ち込もうとするのではなく、営業DXでは確度の高い見込み客や成約の可能性が高い商談を、より確実にクロージングすることを目指します。その結果、顧客と営業マンの双方の満足度の向上も期待できます。
※1 リードジェネレーション:見込み客の発掘
※2 リードナーチャリング:見込み客の育成、関係性の強化
※3 クロージング:商談を成約に結びつけること
セキュリティリスクが低減する
5つ目の営業DXのメリットは、セキュリティリスクが低減することです。
紙ベースの資料を持ち歩いたり、メールやUSBメモリーなどでデータをやりとりしたりすることは、業務効率が低いだけでなく、情報漏えいなどのセキュリティ事故が発生する可能性が高いです。また、データの共有や活用が難しく、セキュリティ的にも問題が多いレガシーシステムを利用している場合も、データの紛失や誤送信、サイバー攻撃による情報漏えい、故障による業務停止などのリスクがあるため注意が必要です。
営業DXに伴って最新のITツールを導入・活用すれば、顧客情報や商談情報、契約情報などがすべてデータ化され、クラウド上のサーバーで高いセキュリティが保たれます。いつでもどこからでも自社の情報に安全にアクセスでき、故障や操作ミスによってデータが失われることも防げます。また、災害やサイバー攻撃などの不測の事態への耐性も強く、復旧も迅速に行うことが可能です。より適切な業務フローへの見直しも行われるため、情報漏えいや不正な改ざん、データの紛失などのリスクが低減します。
※ただし、最新のITツールを導入したとしても、ID・パスワードの厳重な管理、指紋や顔などの多要素認証の活用、ウイルス対策ソフトの導入、セキュリティパッチの更新などの基本的な対策は必須となります。
セキュリティ事故は、顧客に迷惑がかかるだけでなく、自社の信頼を失いかねないリスクです。一度失墜した信頼は回復することが容易ではなく、長期間にわたって自社の営業活動に深刻なダメージを与える可能性を秘めています。営業DXが遅れている場合は、セキュリティリスクが高い状態と考えられます。顧客と自社が安心できるセキュリティ環境を構築することも、営業DXの大切な取り組みの一つと言えます。
営業DXの進め方(7つのステップ)

営業DXの進め方として、以下の7つのステップをご紹介します。
- 経営者や管理者を交えてKGIを明確にする
- 現状の分析と課題の抽出を行う
- 課題の解決方法を検討する
- ITツールの導入や組織体制の見直しを実施する
- KPIを設定して営業現場で試行する
- 効果検証と改善を繰り返す
- 営業DXを加速させる
それぞれを解説します。
1.経営者や管理者を交えてKGIを明確にする
1つ目の営業DXのステップは、経営者や管理者を交えてKGIを明確にすることです。
KGIとは、「Key Goal Indicator」の略で、日本語では「重要目標達成指標」または「経営目標達成指標」と訳します。KGIは、自社が目指す最終的な目標やゴールであり、経営戦略や売上目標などを決定するための重要な指標となります。なお、KGIを達成するために各部門やプロジェクト、個人などに設定されるのが、KPI(Key Performance Indicator「重要業績評価指標」)となります。
営業DXは、経営の根幹や企業の成長に関わる重要な取り組みなので、現場レベルや個人レベルで進めるものではありません。そのため、経営者や営業部門を管理する責任者も交えて自社が目指すKGIを改めて明確化し、営業部門が進めるべきDXの方向性や本質的な目標を定める必要があります。
経営者や管理者の考えと営業現場の考えに乖離がある場合、企業が目指すべきゴールにはたどり着くことができません。最初のステップが非常に重要となりますので、的外れな営業DXにならないよう、社内コンセンサスをしっかりと確認していきましょう。
現状の分析と課題の抽出を行う

2つ目の営業DXのステップは、現状の分析と課題の抽出を行うことです。
1つ目のステップで営業DXの方向性や目的が確認できたら、自社の営業プロセスや顧客データ、商談回数、成約率などの現状分析を行いましょう。自社の商品やサービスの強み・弱み、バリューチェーン(企業の価値連鎖の流れ)、競合とのポジションの違いなども分析し、自社の課題を抽出していきます。
どこに無駄な作業があり、どのようなことが属人化され、どんなことに手間がかかっているのか?1人あたりが費やす余計な時間や労力、コストがどの程度発生していて、〇人月×〇人数で通算するとどうなるのか?顧客や取引先にどのような負担をかけ、商談の機会を損失しているのか?など、現状の分析と課題の抽出をしっかりと行うことが大切です。
現状の分析や課題の抽出では、3C分析※4や4P分析※5、STP分析※6、SWOT分析※7などの手法が有効です。
このステップでは、営業部門のメンバーが数人で1チームとなり、複数のチームに分かれて議論を行うと、より本質的な課題が見えやすくなります。複数のチームが共通して抽出した課題は、すぐにでも是正すべき課題である可能性が高いからです。
※4 3C分析:顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの要素から事業環境を分析するフレームワーク
※5 4P分析:製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の4つの要素から製品やサービスの強みや特徴を分析するフレームワーク
※6 STP分析:セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の3つの要素から市場と自社を分析するフレームワーク
※7 SWOT分析:強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つの要素から自社を分析するフレームワーク
課題の解決方法を検討する
3つ目の営業DXのステップは、課題の解決方法を検討することです。
ステップ2で抽出した課題を、どうすれば解決できるのかを検討していきましょう。例えば、見込み客が増やせないという課題がある場合、見込み客を増やすための対策を考える必要があります。また、成約率が低いという課題がある場合、さらにその原因を深堀した上で、より本質的な解決方法を検討する必要があります。
このステップでの注意点は、安易にITツールの導入を解決方法として持ち出さないことです。ITツールの導入は営業DXの目的ではなく、あくまでも手段に過ぎないからです。そのため、新たなITツールを導入することで、なぜ課題が解決されるのかを慎重に考える必要があります。
一方で、「顧客と向き合う時間が少ない」ということが本質的な課題であった場合、ITツールの導入による業務効率化は絶大な効果を発揮する可能性があります。ただし、ITツールの導入には予算や業務プロセスの見直し、効果検証などが必要となるため、コストパフォーマンスの計測方法も検討することをおすすめします。
ITツールの導入や組織体制の見直しを実施する

4つ目の営業DXのステップは、ITツールの導入や組織体制の見直しを実施することです。
ステップ3で見えた課題の解決に必要なITツールの導入や組織体制の見直しを実施しましょう。市販のSFA※8やCRM※9、MA※10などは、導入コストや手間を削減できる可能性があります。市販のITツールはさまざまな種類がありますので、自社が目指す営業DXに最適なものを選定しましょう。システムの開発や改修を自社で行える場合は、システム部門も交えて仕様を検討しましょう。
また、業務フローの改善や人員の再配置などの組織体制の見直しも必要に応じて行いましょう。営業プロセスやノウハウを属人化させず、チーム一丸で顧客対応できることが営業DXでは重要です。
※8 SFA:セールス・フォース・オートメーション。営業支援システム。
※9 CRM:カスタマー・リレーションシップ・マネジメント。顧客関係管理。
※10 MA:マーケティング・オートメーション。マーケティング業務の自動化。
KPIを設定して営業現場で試行する
5つ目の営業DXのステップは、KPIを設定して営業現場で試行することです。
ステップ4の準備が整ったら、営業DXの効果検証や目標達成度を評価するためにKPIを設定し、実際の営業現場で試行しましょう。新たなKPIを設定することで、正しい方向で営業DXが実現できているのかを確認できます。
ただし、ITツールや業務フローを一気に見直すことは、急な変化に対応できず全社が混乱する可能性があります。また、見込み客や商談回数、成約率などの変化が、期待に反して現状を下回る可能性もあります。顧客や取引先にも迷惑がかかる可能性もありますので、まずは試験運用として小さく始めること(スモールスタート)が大切です。
スモールスタートを行えば、実際の現場が混乱するリスクを最小化できます。失敗を恐れずに効果検証ができ、新たな課題や発見が見えてくることもありますので、営業DXはスモールスタートがおすすめです。
効果検証と改善を繰り返す

6つ目の営業DXのステップは、効果検証と改善を繰り返すことです。
ステップ5で試行した施策が、期待通りの効果を発揮しているのかを検証しましょう。期待したKPIを下回る結果が出たとしても、諦めずに改善を繰り返すことが大切です。営業DXは一朝一夕で実現できるものではありませんので、小さな改善や見直しを繰り返し、新たな仕組み化ができるように熟成を重ねていきましょう。
従来のやり方やシステムの方が楽だったと感じることもあるかもしれません。しかし、営業DXの本質的な目的に近づけるのであれば、それを実現できるやり方やシステムに変革する必要があります。本質的で長期的な視点を忘れず、効果検証と改善を繰り返していきましょう。
営業DXを加速させる
7つ目の営業DXのステップは、営業DXを加速させることです。
ステップ6で効果検証と改善を繰り返し、新しい営業手法やシステムの使い方が確立できたら、全社に水平展開して営業DXを加速させていきましょう。その際、スモールスタートで試行錯誤した営業メンバーは、他の営業メンバーの教育やフォローを行います。最初は抵抗感を示す営業メンバーが出てくる可能性もありますが、ステップ6でしっかりと効果検証と改善ができていれば、他の営業メンバーの説得もしやすいはずです。
全社に水平展開ができたら、改めて営業DXの効果検証を行うことも大切です。新たな課題や改善点が見えてくる場合もありますので、愚直にPDCAを回し続けましょう。PDCAを回し続けることで、自社の営業DXがさらに洗練され、革新的なものへと進化していくことでしょう。
営業DXを成功に導く3つのポイント

ここで改めて営業DXを成功に導くための大切なポイントを3つご紹介します。
- 営業DXの目的を明確にする
- スモールスタートで着手する
- PDCAを回しながら全社に拡大する
それぞれを解説します。
営業DXの目的を明確にする
1つ目のポイントは、営業DXの目的を明確にすることです。
営業DXは一朝一夕で実現できるものではないため、目的が曖昧なまま改革を進めると、時間の経過とともに方向性を見失う可能性があります。また、営業DXの目的が曖昧であると、新しいやり方やITツールを全社に水平展開した場合に、他の営業メンバーのコンセンサスが得られない可能性も高まります。
まずは明確な目的を決め、そこから逆算してITツールの導入や業務フローの見直しなどを行うことが営業DXを成功させる大切なポイントです。
スモールスタートで改革に着手する

2つ目のポイントは、スモールスタートで改革に着手することです。
ITツールの導入や業務フローの見直しを行う場合は、スモールスタートが大切です。失敗のリスクを下げ、効果検証がしやすく、その後の改善も考えやすいからです。いきなり全社に水平展開し、その後に業務に混乱が起きた場合、自社の営業DXが失敗したというイメージが社内に浸透してしまいます。
失敗のリスクを下げ、その後の改革をスムーズに実行するには、始めにスモールスタートすることが必須と言えます。
PDCAを回しながら全社に拡大する
3つ目のポイントは、PDCAを回しながら全社に拡大することです。
営業DXをスモールスタートしたら、PDCAを回しながら全社に拡大していきましょう。効果検証と改善が繰り返されることで、新しい施策や手法が現実に即したものとなり、他の営業メンバーにも受け入れやすいものになります。
営業DXでもっとも気をつけなければならないことは、顧客や取引先に迷惑をかけないことです。営業DXの効果検証や改善がしっかりと行われていなければ、提案活動や受発注業務に混乱が生じ、顧客や取引先からの信頼を失うことにもなりかねません。
期待した成果と真逆の結果とならないよう、新しい施策や手法は効果検証と改善を繰り返し、効果の高いものや問題のないものから全社に拡大していきましょう。
まとめ 営業DXについて

今回は、営業DXが求められる理由やメリット、進め方、成功に導くための3つのポイントを解説しました。
営業DXは、データやデジタル技術を使ってビジネスモデルや企業文化、営業プロセスなどの変革に取り組み、顧客目線で新たな価値を創出することです。より先進的で高い生産性を実現し、自社の持続可能性や競争力を高めていきましょう。
まずは、営業DXの本質的な目的を明確にすることが大切です。その上で、現状分析と課題の抽出を行い、課題の解決方法やITツールの導入を検討していきましょう。
営業DXの方向性や進め方に迷いが生じた場合は、改めて本記事の内容をご参考ください。
GREEN CROSS PARKのDX

東急不動産が展開する産業まちづくりプロジェクト「GREEN CROSS PARK(グリーンクロスパーク)」は、まち全体に先進的なDX基盤整備を行う構想のある新しい産業団地です。高速通信や自動運転技術の先行整備などにより、ここに集うすべての産業に革新をもたらします。