働く場所の魅力だけでは人は集まらない時代になった。産業の核となる企業を呼び込み、同時に暮らしの質を高めていかなければ、地域に人は根づかない。では、これからの産業団地や都市には何が求められるのか。経営学者の入山彰栄氏に、新しい時代のまちづくりの要件を聞いた。
| 入山章栄(いりやま・あきえ) 早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授 慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了後、三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号(Ph.D.)を取得。同年、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授に就任。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から現職。 |
ディープテックが育つ都市の共通点

――これからの産業団地やまちづくりには、どのような価値や役割が求められるでしょうか。
私が注目している都市の一つが、フランス南西部にあるトゥールーズです。現在、世界中から宇宙衛星スタートアップが集積しています。その背景にあるのが、航空機大手エアバス社(Airbus SE)の存在です。ディープテック※1 の実証や試作には実験設備や生産拠点といったフィジカルな現場が不可欠です。こうした領域は資金と時間を要し、従来のVC(ベンチャーキャピタル)だけでは十分に支えきれません。そのため、スタートアップにとって決定的な存在となるのが最初の顧客です。トゥールーズではエアバス社がその役割を担い、資金提供や製品購入の可能性があることで、関連スタートアップが集まる土壌が形成されています。
同様の構造はドイツのミュンヘンでも見られます。自動車大手BMW(Bayerische Motoren Werke AG)が拠点を置く周辺には、次世代モビリティや素材開発を手がける企業が新たに集積しつつあります。強い製造業の近くにスタートアップが集まり、長期で事業を進化させていくという構造は、ディープテックにとって合理的なモデルと言えるでしょう。
日本でも同じことが起こり得ます。私が期待している地域の一つが愛知県刈谷市です。トヨタグループを中心に据えた自動車産業クラスターが形成されており、DENSO、愛知製鋼、JTEKTといった自動車部品や鉄鋼分野の巨大サプライヤーが集まって「刈谷バレー」と呼べる潜在力があります。日立製作所の拠点を擁する茨城にも同様の可能性があります。
※1 ディープテック:最先端の科学技術に基づく研究開発領域
その場所ならではの魅力が、まちの芯に

――GREEN CROSS PARKでも、まず製造業企業を誘致して核をつくろうとしており、まさに「最初の大企業をどう呼び込むか」が最初の課題だと考えています。
これからの産業団地や都市には、産業機能だけでなく、人が暮らしたいと思える要素が不可欠です。渋谷が多くの人を惹きつけるのは、オフィスがあるからではなく、「このまちが好きだ」と思わせる空気があるからです。若い世代が行き交い、飲食店があり、人の表情に楽しさが宿る。そうした“エモさ”がまちの競争力になります。「何もない場所ですが来てください」と言っても、企業は動きません。産業の核となる企業を呼び込むこと。人が「ここで暮らしたい」と思える生活環境を整えること。この両輪がそろって初めて、産業団地やまちづくりは動き出します。
――東急不動産も、地域の文化を感じられる“暮らしたくなる産業団地”をめざしています。
かつては一度入社した会社に長く勤める働き方が一般的でしたが、今は違います。まちや職場に魅力を感じられなければ、人は迷うことなく離れていきます。働き手が「ここにいたい」と思えるまちの感性が重要なのです。
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