リモートワークやデジタル技術の進展により、「どこにいても仕事ができる」環境は現実のものとなった。一見すると、「場所」はもはや重要ではなくなったようにも見える。しかし実際には今、企業も人も、これまで以上に「場所の意味」を問われている。社会構造の変化を背景に、企業と場所の関係はどう変わりつつあるのか。佐々木俊尚さんに話を聞いた。
| 佐々木俊尚 1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社などを経て2003年に独立し、テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで幅広く取材・執筆。『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全』『キュレーションの時代』など著書多数。総務省情報通信白書アドバイザリーボード。ABEMA「ABEMAPrime」レギュラーコメンテーター。 |
距離の制約が薄れる時代に、「場所」は不要になるのか

——デジタル技術の進展によって、距離の制約は急速に小さくなっています。こうした変化は、社会のあり方そのものをどう変えていくとお考えでしょうか。
情報通信技術の進化によって、すでに「どこにいても人とつながれる」という環境は整いつつあります。距離は、かつてほど人の行動や選択を制限しなくなり、誰もが公平に情報、サービス、機会にアクセスできる「距離の民主化」が進んでいます。
日本でも自動運転がいよいよ本格的に始まりつつありますが、これが普及すれば地方の高齢者の移動問題や交通弱者の課題は大きく改善に向かいますし、都市部における移動負担も軽減されていくでしょう。
また、スマートグラス※1や高精度の遠隔会議技術が実用化されれば、離れた場所にいてもほぼ同じ空間にいる感覚で人と交流できるようになります。そうなれば、どこにいても人と出会い、仕事をし、学び合える社会が現実味を帯びてきます。
※1 スマートグラス:眼鏡の形状をしたウェアラブル端末。現実の視界に文字や画像、映像などのデジタル情報を重ねて表示できるほか、通話や撮影、音声認識といった機能をハンズフリーで利用できる。
——距離の民主化が加速すれば、場所の意味もなくなってくるのでしょうか。
確かに制約は一段と小さくなるでしょう。しかし、だからといって場所が不要になるわけではありません。
例えば新型コロナのときには、リモートワークが一気に普及し、多くの人が一定期間、ほぼ100%オンラインで働く経験をしました。そのとき改めて「オフィスに行く意味って何だろう」と問い直されることとなりました。
その結果、多くの人が実感したのは、オフィスはデスクワークをする場所ではなく、人と人が交流し、雑談し、次の発想や仕事が生まれる場だったということでした。距離の制約が弱まったからこそ、「同じ場所に集まる意味」が逆に強く意識されるようになったのだと思います。
距離の制約が薄れる時代は、場所の価値が下がる時代ではなく、場所の意味がより厳密に選別される時代なのだと思います。
「場所」は、関係性のプラットフォームになる

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