製造業や物流業が産業団地に拠点を新設・移転する際、立地の選定は非常に重要だ。そしてその判断は年々難しくなっているという。産業団地への進出を成功させるために、企業はどのような判断軸で立地を見極めればよいのか。また、検討初期に社内の合意形成を行うことはなぜ重要なのか。2名の専門家に話を聞いた。
| 岩﨑 拓也(いわさき・たくや) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コンサルティング事業本部 イノベーション&インキュベーション部 ディレクター/理学博士 2001年に、九州大学大学院先端エネルギー理工学専攻博士後期課程を修了。その後、国内大手シンクタンクを経て、2022年にMURC入社。先端技術動向やその利活用をはじめ、研究開発・事業戦略支援、DX推進支援に幅広い知見を有している。 |
| 永井 議靖(ながい・のりやす) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コンサルティング事業本部 社会共創ビジネスユニット イノベーション&インキュベーション部 マネージャー 2010年に早稲田大学先端理工学研究科ナノ工学専攻を修了。その後、国内大手精密機器メーカーを経て、2022年にMURC入社。主に製造業に向けた研究開発・事業戦略策定支援業務に従事しており、製造業向けの産業団地に関する知見を有している。 |
なぜ立地検討は難しくなっているのか

——近年、製造業・物流業の立地検討は以前と比べてどのように難しくなっていますか
岩﨑:製造業、物流業における立地検討が難しくなっている理由は、大きく3つあります。
1つ目はグローバル化が一層進んでいること、2つ目はパンデミックや国同士の争いといった地政学的な問題、3つ目は環境対応、これらが求められる中でサプライチェーンの再構築や強靭化に取り組まなければいけないということです。特にサプライチェーンは、考慮すべき要素が増えており、立地検討への影響も大きくなっています。
永井:立地における諸条件が良い土地は競争が激しく、奪い合いになっているのも難しさです。チャイナリスクや円安を背景に、海外から工場を戻す“国内回帰”の動きが活発になり、土地の競争が激化しています。
岩﨑:国内回帰によって土地が足りなくなってきていることに加え、人手が足りない現状があります。労働規制の強化による「物流の2024年問題※1」も顕在化しました。人手不足に加えて人件費高騰という現状も踏まえた立地検討が求められます。
※1 物流2024年問題:働き方改革関連法によりトラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用されたことで、輸送能力の低下や人手不足の深刻化が生じている課題。
永井:コストでいうと、建材や資材の価格も高騰しています。工場の建屋の見積もりを依頼したところ、予算を超過したという理由で再検討が必要になり、着工するまでのリードタイムが伸びてしまうということが発生しています。また、近年の災害の増加や気象状況の変動による想定外のコストの発生も課題です。
——従来の判断軸だけでは決められなくなっている背景をどう見ていますか
岩﨑:リスクが多様化・複雑化していることが立地検討の判断を難しくしています。加えて、新しい判断軸として社会課題への対応、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応も企業に求められるようになったのも重要なポイントです。
DXに関して言えば、DXを一定程度進めることで労働者にとって魅力的な職場環境を作り、離職率が低い持続的な拠点にしていくことが重要なポイントです。そのため、まずは働く環境を整えるためにDXの活用を考えるべきでしょう。
永井:DXというと、業務効率化によるコスト削減というメリットもあります。ただし、中小企業などでは、製造現場での手書き書類の運用やアナログな業務管理がいまだに残っているところも珍しくありません。それらをデジタル化すると、システム開発費やSaaS※2 の導入費、さらに月々の使用料など、削減コストを上回るDX導入コストがかかるケースもあります。
また、ベテランの従業員が、DXによって業務のデジタル化がされたような新拠点に異動になった際に、新しい業務方式を受け入れられずハレーションが起きるということも実際に発生しています。そのため、DX化においては強いイニシアチブをもって陣頭指揮を取れる人を配置し、組織作りも含めて実施していく必要があります。
※2 SaaS(Software as a Service):ソフトウェアをインターネット経由で利用するサービス形態。自社でシステムを保有・運用するのではなく、月額利用料などを支払って必要な機能を利用する。
検討初期に必ず整理すべき論点

——立地検討を始める際、最初に整理すべき前提条件は何でしょうか
岩﨑:最初にすべきは、仮にその立地で事業を行うとした場合、自社では解決できないことが何かを確認し、どう対応するかを考えることです。例えば法規制は自分たちが頑張っても変えられるものではありません。許認可や排水規制のようなインフラ周りの規制など、自社の事業に影響があるもので変えられないものは押さえておくべきです。
また、その地域の補助金の活用や金融機関からの借入を利用する等、資金調達環境が整っているかの検討も初期に行うべきです。細かくどこに何を使うかまではまだ詰めないにしても、どれくらいの規模感の金額が動くのかはしっかり押さえておきましょう。仮に想定していた資金調達がうまくいかなかった場合にも成り立つシナリオを検討しておくことを勧めます。
永井:行政支援など、地域のビジョンと自社が産業団地進出することとの整合性が取れているかも重要です。例えば自治体が誘致を主導する産業団地や各種特区など、その地域の目的と自社がその産業団地へ進出することがしっかりマッチングしているかは、立地を検討する上での前提となります。
——社内で合意しておかないと後で問題になるポイントはどこですか
岩﨑:まず、産業団地へ進出する目的と事業計画に関して社内で合意をとっておく必要があります。
よくあるのが合意を取る前の段階で特定の部署が計画の具体的な検討を進めてしまい、経営層の合意を取ろうとしたらひっくり返されるというケース。事前に目的と事業計画骨子さえ合意をとっておけば、計画の中身が多少変わっても全体方針に影響は出ないはずなので、まずは目的と事業計画骨子の合意をとってから細部の検討を進めましょう。
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