産業団地進出を成功に導く──専門家が語る立地検討のチェックポイント【MURCインタビュー】

産業団地進出を成功に導く──専門家が語る立地検討のチェックポイント【MURCインタビュー】

製造業や物流業が産業団地に拠点を新設・移転する際、コストや物流、人材面ではどのような落とし穴があるのか。産業立地に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社のお2人に、立地検討のチェックポイントを聞いた。あわせて、同社に監修いただいた実務ツール「産業団地進出 チェックリスト30」も紹介する。

岩﨑 拓也(いわさき・たくや)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コンサルティング事業本部 イノベーション&インキュベーション部 ディレクター/理学博士 

2001年に、九州大学大学院先端エネルギー理工学専攻博士後期課程を修了。その後、国内大手シンクタンクを経て、2022年にMURG入社。先端技術動向やその利活用をはじめ、研究開発・事業戦略支援、DX推進支援に幅広い知見を有している。
永井 議靖(ながい・のりやす)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コンサルティング事業本部 社会共創ビジネスユニット イノベーション&インキュベーション部 マネージャー 

2010年に早稲田大学先端理工学研究科ナノ工学専攻を修了。その後、国内大手精密機器メーカーを経て、2022年にMURC入社。主に製造業に向けた研究開発・事業戦略策定支援業務に従事しており、製造業に関する幅広い知見を有している。

見落とされがちなコストとリスク

見落とされがちなコストとリスク

——企業が産業団地に立地する際、見落としやすいコストにはどのようなものがありますか

岩﨑:見落とされがちなコストとリスクは以下の7つが代表的です。

1つ目は地域との関係構築にかかるコストやリソース。実際にプロジェクトが動き出すと、スムーズな運用のために自治体や地域住民との関係構築は必須になります。

2つ目は許認可の取得費用や申請費用。申請手続き、事前調整、書類作成等で、相応のコストが発生します。許認可を維持していくための費用についても考慮しておかなければなりません。

3つ目は保険・セキュリティ費用。防犯対策、災害対策には必須です。

4つ目は人材の育成。初期の採用費だけではなく、魅力的な企業だと感じてもらい長期的に働いてもらうための環境整備や、この企業は人材育成に力を入れているといった良い評判が地域に広まるような取り組みも対象です。

5つ目は撤退・事業縮小する際のコスト。拠点から撤退する際の違約金や、建物を取り壊して更地にする費用が発生する可能性も念頭に置く必要があります。

6つ目はDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に要する費用。PC等のデバイス導入だけでなく、システムの導入や運用などにもコストが発生します。

7つ目が追加工事の費用。工事を進める中で補強の必要が出てきたり、新たな設備をつけたりといった追加工事が発生することがあるはずです。

永井:加えて、追加の地質調査による土壌汚染の発覚や、その浄化が必要になる等、想定外のコストが発生する可能性があります。これらのリスクが起きても対処できるようなリスクマネジメントを、コスト算出時点でしておくことを勧めます。

岩﨑:また、どんな種類のエネルギー、およびインフラを選ぶかによってもコストは変わるので、自社の事業とのバランスを見て決める必要があります。例えば電力なら既存電力なのか再エネ(再生可能エネルギー)調達なのか、自家発電をするのか。自家発電をすると都市ガスを使う必要が出てくるのでそのコストの発生をどう捉えるか。水道なら安い工業用水なのか高い浄水なのか。安い工業用水を自社で濾過して使うことで対応できるのか。こうした検討項目だけでも、選択肢は非常に多くあります。

永井:再エネ関連でいうと、そもそも調達費用がどれくらいかかるのか、カーボンプライシング※1 ・排出権取引※2 の開始によるコストも見落としがちです。特にこういった新しい領域のコストに関しては、専門家の意見を聞きながら対応していくことで失敗する確率を下げられます。

※1 カーボンプライシング:温室効果ガス排出に価格を付け、排出削減を促す政策。炭素税や排出量取引などが含まれる。

※2 排出権取引:温室効果ガスの排出枠を企業間で売買できる仕組み。排出量を削減した企業が余剰分を取引できる。

——ランニングコストの見積もりで失敗する典型例を教えてください

岩﨑:ランニングコストの見積もりで失敗するケースで多いのが、産業廃棄物の処理費用や設備更新費用です。特に設備更新費用に関しては、導入時点で中古の設備を購入して初期費用を小さく見せたとしても、使える期間が想定よりも短かったり、修理や入れ替えで結局大きなコストが発生してしまうことがあります。無理に高く見積もる必要はないですが、多分大丈夫だろうという思い込みで過小に見積もらないように注意が必要です。

——将来負担や制度面で後悔するケースはありますか

岩﨑:法規制の変更によってコストが発生することを念頭において、何かあった時にも対応できる余力は残しておきましょう。これまでの例でいうと、騒音規制が厳しくなったり、産業廃棄物の分別が必要になったりという法規制の変更で、追加投資が必要になるということがありました。

物流・BCP・人材の現実的な見方

物流・BCP・人材の現実的な見方

——物流面で想定と現実がずれるケースはどのような点ですか

永井:まずは「物流2024年問題※3」が原因となり、ドライバー不足と人件費の高騰によって想定する輸送コストより上振れするということが起こりがちです。また、輸送手段として船舶や鉄道を想定し、それらの拠点が近い立地だったとしても、自社の求める輸送能力が確保できるかどうかを確認する必要があります。

※3 物流2024年問題:働き方改革関連法によりトラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用されたことで、輸送能力の低下や人手不足の深刻化が生じている課題。

岩﨑:立地先の地元物流企業に委託をすれば良いと思っていても、実際に確認してみると想定よりも対応できる規模が小さかったということも起こり得ます。トラックの台数が少ない、集荷配送の頻度が少ない、冷凍・冷蔵の車両が少ない、危険物の取り扱いができないといったことは珍しくないので、当たり前にできていると思っていたとしても、実現可能かどうかを事前に調査しておくことが重要です。また、産業団地だと、企業の集荷発送のピークが同じタイミングに集中してしまい、配送に時間がかかるということも起こりやすいです。

——BCP(事業継続計画)※4 や災害リスクはどの程度まで検討すべきでしょうか

永井:特にハザードの想定や有事の際の電源確保ができる状態にしておくべきだと思います。また、製品製造の代替手段や代替拠点に関してもあらかじめ検討しておく必要があります。

岩﨑:企業が考えるべきは、何か起きた際に、工場であれば工場が可能な限り止まらないようにする、物流だったら物流が止まらないようにすることです。事業を最低限レベルで継続させる、もしくは早期に復旧させるための具体策を考えておく必要があります。事業継続に大きな影響を及ぼさない、仮に止まったとしても事業はどうにか続けられるというところは優先度を下げても問題ありません。

※4 BCP(Business Continuity Plan/事業継続計画):災害や事故などの緊急事態が発生した際に事業継続を図るための計画。

——人材確保の観点で立地がネックになるケースは多いですか

永井:地方だと、今後過疎化が進んでいくことで人材確保が難しくなり移転をせざるを得なくなるケースが出てくるので、それであれば最初から地方の中心都市に近いエリアに拠点を置くといった考え方も必要です。ある程度人口が多いところに進出した方が将来的なネックも少ないと思います。また、今後は近隣の産業団地との競争激化が予想されるので、人材の奪い合いがおきて人材確保が難しくなるエリアが出てくる可能性はあります。

岩﨑:今は様々な採用手段があるので、地方だからといって必ずしも採用ができない、人材確保が難しいとは限りません。ただし、技能人材の確保が地方だと都会より難しい可能性があります。例えば、製造業の工場などで派遣社員は多いものの、目視検査をする工程を担当できる技術者が足りないといったことが起こりうる。だから、地域に高専のような技術者を育成するような教育機関があるかも立地選定のポイントになるかもしれません。

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