カーボンオフセットは、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を実質的にゼロにすること)を実現するための有効な手段の一つです。自助努力による排出削減を行ってもなお減らせない温室効果ガスを、カーボンクレジット(後述)の購入などの取り組みを通じてオフセット(相殺)するという方法です。
今回は、カーボンオフセットのメリットや手順、注意点をご紹介しながら、カーボンニュートラルとの違いも解説していきます。
カーボンオフセットとは?
環境省がまとめた『カーボンオフセットの最新動向』によると、カーボンオフセットの定義は以下の通りとなります。
| カーボンオフセットとは?市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、カーボン・クレジット等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせること、すなわち『知って、減らして、オフセット』の取組をいう。 |
つまり、自社が努力してもなお削減しきれない温室効果ガスを、他の方法を用いてオフセット(相殺)することが、カーボンオフセットです。
なおカーボンクレジット(カーボン・クレジット)とは、温室効果ガスの削減量や吸収量を、測定・報告・検証のプロセスを経て認証し、取引可能な形で価値化したものです。
カーボンオフセットの対象となる温室効果ガスは、以下の7つです。
- 二酸化炭素(CO2)
- メタン(CH4)
- 一酸化二窒素(N2O)
- ハイドロフルオロカーボン(HFCs)
- パーフルオロカーボン(PFCs)
- 六ふっ化硫黄(SF6)
- 三フッ化窒素(NF3)
これらの温室効果ガスの排出を削減し、カーボンニュートラルを実現するための有効な手段の一つとしてカーボンオフセットが注目されています。
カーボンオフセットとカーボンニュートラルとの違い

カーボンニュートラルは目標やゴールであり、カーボンオフセットはカーボンニュートラルを実現するための有効な手段の一つです。

カーボンオフセットを効果的に活用し、自社のカーボンニュートラル実現を加速させていきましょう。
カーボンオフセットが必要な理由

カーボンオフセットが必要な理由は、自助努力による温室効果ガスの削減だけでは、目標としている削減量に届かない場合があるからです。
地球温暖化を抑制するには、企業や自治体、個人などが排出する温室効果ガスを削減する必要があります。地球温暖化は世界共通の問題となっており、2015年に合意されたパリ協定では、「長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求すること」が設定されました。
日本では2050年までにカーボンニュートラルの実現が目標とされており、その実現に向けた取り組みが活発になっています。カーボンニュートラルを実現するためには、国内で排出される温室効果ガスの多くを占める企業の努力が欠かせません。そのため、各企業では下記のような温室効果ガスの排出削減を行っています。
- 再生可能エネルギーの導入
- リサイクル資源の活用
- 業務の自動化や電動化による省エネ
- 梱包材の再利用
- サプライチェーンの脱炭素化など
しかし、こうした努力を積み重ねても、技術的・経済的な制約から目標とされる削減量に届かない場合があります。
一方で、企業によっては排出枠に余剰が出ることがあります。また、さまざまな資金を活用して再生可能エネルギーを作り出したり、植樹などの森林保護活動を通じてCO2の吸収量を増やしたりする取り組みも行われています。
これ以上の温室効果ガスの削減が難しい企業は、他の企業で余剰が出た排出枠を購入したり、再生可能エネルギーを作り出す事業者や森林保護の活動に資金を提供したりすることで、自社の温室効果ガスの排出量を相殺することができます。
カーボンオフセットを活用すれば、企業は自助努力を超えたさらなる温室効果ガスの削減が目指せるようになります。また、再エネ活用の技術開発や環境保存などの取り組みに対して資金を循環できることも、カーボンオフセットの大きなメリットです。
カーボンオフセットのメリット

企業がカーボンオフセットを活用することで得られる主なメリットは以下の3つです。
- カーボンニュートラルの実現に近づく
- 環境意識の高い企業としてアピールできる
- 気候変動対策を行う事業や取り組みを支援できる
それぞれを解説します。
カーボンニュートラルの実現に近づく

1つ目のメリットは、カーボンニュートラルの実現に近づくことです。
企業単体が行う温室効果ガスの削減には限界がある場合があります。過度な温室効果ガスの削減は、事業活動や収益性にマイナスな影響を与え、企業の持続性を損なう可能性があるからです。
例えば、太陽光などで発電された再生可能エネルギーだけでは事業活動に必要な電力を賄えない場合、化石由来のエネルギーで発電された電力を利用しなければならないでしょう。また、自社の敷地が狭く、太陽光パネルなどの設置や植林が難しい場合も考えられます。
自社の温室効果ガスの排出削減の取り組みに限界がある場合でも、カーボンニュートラルの達成は目指すべき世界の共通目標です。そこで注目されているのが、温室効果ガスの排出量を相殺できるカーボンオフセットです。
カーボンオフセットを活用することで、自社が排出する温室効果ガスを削減・吸収したものと評価されます。これにより自助努力だけではこれ以上の温室効果ガスの排出削減が難しい場合でも、カーボンニュートラルの実現に近づくことができます。
環境意識の高い企業としてアピールできる

2つ目のメリットは、環境意識の高い企業としてアピールできることです。
SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資(環境、社会、ガバナンスという非財務情報を評価した投資手法)への関心の高まりから、環境意識に敏感な消費者や投資家、取引先は持続可能性の高い事業を行う企業を評価する傾向にあります。世界主要各国がパリ協定に批准し、脱炭素やカーボンニュートラルへの取り組みが世界的なトレンドになっているからです。
こうした傾向から、カーボンオフセットを活用する企業は、カーボンニュートラルに野心的に挑戦する環境意識の高い企業としてアピールすることができます。その結果、消費者や投資家、取引先からの評価や評判が向上したり、新たなビジネスチャンスが拡大したりすることが期待できます。
例えば、ライバル企業と競合する自社の製品やサービスであっても、カーボンオフセットへの取り組みをアピールすることで、環境意識の高い消費者から選ばれる可能性が高まります。また、カーボンオフセットへの取り組みが評価されることで、新たな融資や資金調達がしやすくなる可能性もあります。サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルの実現を目指す大企業から持続可能性の高い企業として評価され、新たな取引のオファーが来ることも考えられます。
環境意識の高い企業としてアピールするには、競合他社に先駆けてカーボンオフセットを活用することが大切です。先進的なブランドイメージを確立するためにも、できるだけ早くカーボンオフセットの活用を進めていきましょう。
気候変動対策を行う事業や取り組みを支援できる

3つ目のメリットは、気候変動対策を行う事業や取り組みを支援できることです。
カーボンニュートラルは、自社の排出量削減(Scope1)だけで実現できるものではありません。自社が間接的に排出する温室効果ガスの削減(Scope2)や、自社が属するサプライチェーン全体での温室効果ガスの削減(Scope3)も求められているからです。そのため、カーボンニュートラルを実現するためには、気候変動対策そのものをさらに加速させていく必要があります。
カーボンオフセットでは、再生可能エネルギーの発電事業者を支援するクレジットや森林保護を支援するクレジットなどを購入します。こうしたカーボンオフセットの活用は、自社の温室効果ガスの排出量を相殺するだけでなく、気候変動対策を行う事業や取り組みを支援することにも繋がります。
例えば、国のカーボンクレジットの認証制度である「J-クレジット」では、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2などの排出削減量や、適切な森林管理によるCO2の吸収量を「クレジット」として購入することができます。
出典:J-クレジット制度事務局『J-クレジット制度について』
これにより、自社が努力してもなお削減が難しい温室効果ガスを相殺するだけでなく、省エネ設備事業や適切な森林管理などの支援にも繋がります。
自社のカーボンニュートラル実現のために、カーボンオフセットの活用も検討してみましょう。
カーボンオフセットに取り組む手順
カーボンオフセットに取り組む手順は以下の通りです。
- 準備
- 排出量の認識(知って)
- 排出削減の取り組み(減らして)
- 埋め合わせ(オフセット)
- 情報提供
それぞれを解説します。
参考:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
1.準備

出典:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
カーボンオフセットに取り組むためには、まずは準備が大切です。目的を明確にした上で、どんなクレジットを使用するのかを検討しましょう。取り組みを継続的に行うために、担当者および管理者を設定し、自社の管理体制を構築しましょう。
オフセット主体の明確化とは、誰がどの程度の温室効果ガスの排出を削減したのかを明確にすることです。例えば、製造者が生産過程だけで10kgのCO2を削減した場合、オフセット主体は製造者です。この製品の場合、販売した業者や購入した利用者は、オフセット主体に含まれません。オフセット主体をあらかじめ明確にしておかないと、製造者・販売者・購入者がそれぞれ10kgのCO2を削減し、社会全体で30kgのCO2を削減したことになってしまいます。
一方、購入者の使用によりCO2が削減できる場合は、製造者や販売者にはCO2削減効果は認められません。オフセットのダブルカウントやトリプルカウントを避けるために、オフセットを行った主体者を準備段階で明確にしておくことが大切です。
2.排出量の認識(知って)

出典:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
温室効果ガスの排出量を相殺するためには、自社のどのような活動で、どのくらい温室効果ガスが排出されているのかを把握する必要があります。そのためには、自社がどのような場面で温室効果ガスを排出しているのかを知り、算定対象の範囲を決定する必要があります。
出典:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
算定範囲には、直接排出量(Scope1)と、間接排出量(Scope2)を含めなければいけません。サプライチェーン全体での排出量(Scope3)に関しては、自らの責任範囲を考慮した上で、算定が困難な場合を除き、最低対象に含めることが望ましいとされています。
なお、CO2排出量の算定は、以下の式で求めます。
| CO2排出量=活動量×排出係数 |

出典:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
また、CO2以外の温室効果ガスについては、以下の式で求めます。
| 温室効果ガス排出量=活動量×排出係数×地球温暖化係数 |
活動量とは、電力メーターなどによる実測値や、電力会社などからの購買伝票に記載された電力消費量などです。排出係数や地球温暖化係数については、環境省の『算定方法・排出係数一覧』などで確認することができます。

出典:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
3.排出削減の取り組み(減らして)

出典:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
カーボンオフセットを活用するためには、まずは自社の温室効果ガス排出削減の取り組みを行わなければいけません。下記の例を参考に、自社の温室効果ガス排出削減を行っていきましょう。
<例 様々な排出削減取組>
- A 社の全体の温室効果ガス排出量の削減目標となる基準の設定
- A 社オフィスでのコピー用紙等のリサイクルの実施、リサイクル用品の使用
- A 社オフィスの空調設定の見直しや休憩時間のオフィス消灯、従業員に対する公共交通機関の利用推進活動
- A 社オフィスや A 社が運営する工場における再生可能エネルギー由来電力の調達
- A 社が運営する工場、荷主となる物流等、A 社の責任範囲の活動における環境負荷の低減
- 製品 B の原材料調達により排出される温室効果ガスの排出量や、廃棄・リサイクルにより排出される温室効果ガスの排出量の削減
- ISO14001 の取得等、A 社における環境マネジメントシステム、削減計画の確立や実施*
*環境マネジメントシステム等に関する認証等には、以下のようなものがあります。
ISO14001/エコアクション 21/エコステージ/KES(環境マネジメントシステム・スタンダード)及び KESと相互認証を交わしている地域版環境マネジメントシステム・スタンダード/グリーン経営認証/グリーン購入
出典:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
また、自社の排出削減以外にも、自社の顧客や取引先に対して排出削減の取り組みを促すことも大切です。例えば、自社製品の効率的な使用方法を広報することや、自社が主催するイベントの参加者に公共交通機関の利用を促すことなどでも温室効果ガスの排出削減に貢献できます。
4.埋め合わせ(オフセット)

出典:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
「2. 排出量の把握」で算定した排出量から自社に必要なオフセット量を決定し、「1.準備」で検討したクレジットを目的に合わせて調達しましょう。調達したクレジットは、ダブルカウントなどを防止するために、無効化が完了したことを証明する書類を確認することが大切です。
例えば、J-クレジットではクレジットの調達から無効化までを自社で行うことができます。なお、購入したクレジットを保有しただけではカーボンオフセットを実施したことになりません。クレジットを無効化口座に移転することで無効化が完了し、自社においてカーボンオフセットが実施されたことになります。
クレジットの調達や無効化は、外部のプロバイダーに調達費用と手数料などを支払うことで一貫して委託することもできます。外部委託する際は、自社が購入したクレジットが確実に無効化されていることと、無効化証明書を入手することが大切です。
5.情報提供

出典:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
カーボンオフセットを実施したら、できる限り多くの情報を一般向けに提供することが大切です。気候変動対策の喫緊性や気候変動問題の解決のために温室効果ガスを削減する必要性を消費者などに発信し、広く理解促進を行っていきましょう。広く一般向けに発信することで、気候変動対策のさらなる加速が期待できるからです。
なお、カーボンオフセットに使用したクレジットは、以下の制度へ報告できる場合があります。

出典:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
CDP:投資家向けに企業の環境情報の提供を行うことを目的とした国際的なNGO。気候変動等に関わる事業リスクについて、企業がどのように対応しているか、質問書形式で調査し、評価したうえで公表するもの。
RE100:事業活動で使用する電力を、全て再生可能エネルギー由来の電力で賄うことをコミットした企業が参加する国際的なイニシアチブ。
SBT:パリ協定が求める水準と整合した、5年~15年先を目標として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のこと。
カーボンオフセットやJ-クレジット制度については、下記ページをご参照ください。
参考:J-クレジット制度事務局『J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて』
カーボンオフセットの注意点

カーボンオフセットに取り組む際は、クレジットの信頼性を確保することが大切です。クレジットの信頼性が低い場合、有効な対策としてカウントされない可能性があるからです。カーボンクレジットとしての基準を満たし、公的機関による第三者検証が行われているクレジットを活用しましょう。
また、購入したクレジットを保有しているだけではカーボンオフセットが実施されたことにはなりません。所定の手続きを行ってクレジットの無効化を完了し、カーボンオフセットを確実に実施しましょう。
カーボンオフセットに関する詳しい内容は、環境省の『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』をご確認ください。
参考:環境省『カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0』
まとめ カーボンオフセットについて

今回は、カーボンオフセットのメリットや手順、注意点、カーボンニュートラルとの違いを解説しました。
カーボンオフセットは、自社が努力してもなお削減しきれない温室効果ガスを、カーボンクレジットの購入などでオフセット(相殺)することです。自社のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を実質的にゼロにすること)を実現するための有効な手段の一つとなりますので、適切かつ効果的な活用を検討しましょう。
GREEN CROSS PARKのGX

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