再生可能エネルギーを少ない初期投資で調達できる「コーポレートPPA」が、企業の脱炭素戦略として注目されています。
本記事では、その仕組みや種類、導入時のメリット・デメリット、最新動向まで詳しく解説します。
コーポレートPPAとは?

コーポレートPPA(Corporate Power Purchase Agreement)とは、発電事業者が作った再生可能エネルギー由来の電力や環境価値を、企業が長期的に購入する契約形態です。
企業が独自に自家消費型の発電設備を導入するには、広大な敷地や大きな初期投資、その後の永続的なメンテナンスコストが必要となります。また、発電事業者ではない企業が発電設備を導入・維持するためには、膨大な時間と手間がかかり続けることにもなります。
PPAについて詳しく知りたい方はこちら
PPA(電力購入契約)とは?企業が知っておきたいGX時代の電力戦略
一方で、企業のカーボンニュートラルの実現は待ったなしの状況です。国は2050年までにカーボンニュートラル(事業や社会活動で排出される温室効果ガス(GHG)の量を実質的にゼロにすること)を実現することを目標とします。また、SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資(環境、社会、ガバナンスという非財務情報を評価した投資手法)への関心の高まりから、顧客や取引先、投資家などのステークホルダーの多くが、企業の持続可能性の高さを重要な評価指標としているからです。
そこで注目されているのが、大きな初期投資をほとんど行わずに再生可能エネルギー由来の電力や環境価値を長期的に購入できるコーポレートPPAです。※コーポレートPPAを活用すれば、企業のカーボンニュートラルの実現が大きく前進する可能性があります。
※条件によって一部費用が発生する場合があります
ただし、コーポレートPPAにはいくつかの種類があり、それぞれに特徴があります。より効率的にカーボンニュートラルを目指すためには、自社に最適な契約形態を選ぶことが大切です。
コーポレートPPAの種類

コーポレートPPAには、オンサイトPPAとオフサイトPPAという2つの種類があります。さらにオフサイトPPAには、フィジカルPPAとバーチャルPPAの2種類があり、それぞれに特徴やメリットが異なります。
| コーポレートPPA | ||
| オンサイトPPA | 自社の敷地や屋根に発電事業者が発電設備を設置し、その再エネ電力を自社で消費する形態 | |
| オフサイトPPA | 自社の敷地外で発電された再エネ電力を自社で消費する形態 | |
| フィジカルPPA | 実際に自社に送電して消費する形態 | |
| バーチャルPPA | 実際の送電は行わずに環境価値を購入する形態 | |
それぞれの特徴やメリットを解説します。
オンサイトPPA

オンサイトPPAは、自社の敷地や屋根といったスペースに、発電事業者が太陽光発電設備などを設置し、そこで発電された電力を自社が購入して消費する形態です。発電設備の設置や所有、メンテナンスは発電事業者側が行うため、企業側は初期投資をほとんど行わずに自家消費型の発電設備を導入することができます。運用面での負担も少なく、要件を満たせば国際イニシアチブのCDP※1 やSBT※2 、RE100※3 の報告に活用可能ともされています。
※1 CDP:投資家向けに企業の環境情報の提供を行うことを目的とした国際的なNGO。気候変動等に関わる事業リスクについて、企業がどのように対応しているか、質問書形式で調査し、評価したうえで公表するもの。
※2 SBT:パリ協定が求める水準と整合した、5年~15年先を目標として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のこと。
※3 RE100:事業活動で使用する電力を、全て再生可能エネルギー由来の電力で賄うことをコミットした企業が参加する国際的なイニシアチブ。
オンサイトPPAの電力は、長期契約に基づいた固定価格で発電事業者から購入します。自社のスペースで発電された電力をそのまま使用している場合、再エネ賦課金が不要となります。送電コスト(託送料)も抑えることができ、送電によるロスも少ないため、再エネ電力をより有効に活用することができます。また、自律運転機能や蓄電池機能、系統切り替え機能などを備えれば、地震などの災害による停電時でも電力供給が完全にゼロにならず、BCP(事業継続計画)対策としても有効です。
ただし、オンサイトPPAの契約には、発電事業者の採算性に合う広さや日当たりなどの環境、電力量の購入規模が求められます。また、長期的に電力の市場価格が下落した場合、市場価格よりも高い固定価格で電力を使い続けなければならなくなるため注意が必要です。
なお、オンサイトPPAは15~25年程度の長期契約が前提となりますので、事業環境の変化による敷地や建物の移転、売却、閉鎖などが発生した場合、相応の違約金の支払いが必要となります。そのため、オンサイトPPAを導入する場合は、契約期間内で継続的な電力需要があることが大切です。
オンサイトPPAについては以下もご参照ください。
オンサイトPPAとは?メリットや注意点、他の自家消費型太陽光発電設備との違いを解説
オフサイトPPA

オフサイトPPAは、自社の敷地外で発電された再エネ由来の電力を、発電事業者から長期的に購入する形態です。自社の敷地や屋根が狭い場合や、オフィスや工場を賃貸契約している場合でも、オフサイトPPAなら再エネ由来の電力を活用し、カーボンニュートラルの実現に近づくことができます。
自社に発電設備を設置する必要がないため、オンサイトPPAよりも早く再エネ由来の電力を使い始められるケースも多いです。また、敷地や屋根の広さや日当たりなどの環境に制約を受けることがないため、発電事業からの大規模な電力供給を受けることができるのもオフサイトPPAの優れた点です。
オフサイトPPAも、要件を満たせばCDPやSBT、RE100などの国際的なイニシアチブへの報告に活用できます。ただし、自社の敷地内に発電設備を有するオンサイトPPAと比べ、オフサイトPPAの電力は送電コストが発生するために割高になるケースが多いです。また、5~20年程度の長期の固定買取契約になるため、電力の市場価格が下落した際には、電力コストが割高になる可能性もあります。自社の敷地内に発電設備を持たないため、停電時のBCP対策にならない点にも注意が必要です。
なお、オフサイトPPAには、発電事業者が発電した再エネ電力を送電して実際に消費するフィジカルPPAと、実際には再エネ電力を使用せずに発電事業者から環境価値だけを購入するバーチャルPPAの2種類があります。
フィジカルPPA

フィジカルPPAは、発電事業者によって作られた再エネ電力を購入し、実際に自社まで送電して消費する形態です。自社に広大な敷地や屋根が無くても、フィジカルPPAを活用すれば再エネ電力を実際に使用することができます。
太陽光や風力などで作られた再エネ電力を実際に使うだけでなく、その環境価値も購入できることがフィジカルPPAの大きな特徴です。電力価格は5~20年程度の長期にわたり固定価格で提供される場合が多いので、エネルギーコストの上昇リスクを抑える効果が期待できます。
自家消費型の発電設備を設置できなくても、温室効果ガスの排出量削減に直接貢献でき、非化石証書※4 やグリーン電力証書※5 、J-クレジット※6 などの環境価値が得られるのがフィジカルPPAのメリットです。要件を満たせばCDPやSBT、RE100などの国際イニシアチブの報告にも活用できます。
※4 非化石証書:再生可能エネルギーや原子力などの化石燃料を使わずに発電した電気に付与される環境価値を証明する証書のこと。
※5 グリーン電力証書:再生可能エネルギーで発電された電力の環境付加価値を、証書の形で取引する仕組み。
※6 J-クレジット:企業や自治体が再生可能エネルギーの導入や省エネルギー設備の導入、森林によるCO2吸収などにより、削減吸収された温室効果ガス(CO₂など)の量を「クレジット」として認証し、取引できる制度。
ただし、自社に再エネ電力を送電するためには、電力会社の託送が必要になる場合があります。電力会社の託送が必要になる場合は、自社と発電事業者、電力会社の3社間契約となり、電力会社に託送費用を支払う必要もあります。また、電力会社からの供給量と自社の需要量を30分や1時間ごとに同時同量を担保する必要があるため、電力会社へ支払う諸経費等のバランシングコストも上乗せされます。再エネ賦課金の支払いも必要となるため、フィジカルPPAはオンサイトPPAよりも電気料金が割高になるケースがあります。
バーチャルPPA

バーチャルPPAは、発電事業者が作った再エネ電力を実際に自社に送電するのではなく、発電事業者が再エネ電力を市場で売電します。その際、あらかじめ決定しておいた固定価格と市場価格の差額を決済するとともに、再エネ電力の環境価値を購入する形態です。自社ではこれまで通りに電力を消費し、再エネ電力の環境価値を購入することでScope2(自社が購入した電力を作る際に間接的に排出される温室効果ガス)の排出量を削減したものと見なすことができます。
再エネ電力を仮想的に活用するため、物理的や地理的な制約により実際に再エネ電力を送電できなくても、カーボンニュートラルを目指すことができます。要件を満たせばCDPやSBT、RE100などの国際イニシアチブの報告にも活用できます。
ただし、バーチャルPPAには注意点があります。バーチャルPPAも5~20年間にわたる長期契約となりますが、市場価格が変動した場合はその差額を決済する必要があります。
例えば、市場価格が長期契約した固定価格よりも上昇した場合、発電事業者から自社にその差額が支払われます。逆に、市場価格が下落した場合は、自社が発電事業者にその差額を支払う必要があります。
実際の電力を購入するわけではなく、市場価格との乖離があった場合に差金決済を行う必要があるため、バーチャルPPAはデリバティブ(金融派生商品)取引として扱われる可能性があります。そのため、バーチャルPPAを導入する場合は、法務や会計、財務などの金融取引に関する専門的な知識が必要です。
コーポレートPPAのメリット

コーポレートPPAの主なメリットは以下の3つです。
- 長期的に安定した価格で電力を調達できる
- カーボンニュートラルの実現に貢献できる
- 企業のESG評価・ブランド価値の向上につながる
それぞれを解説します。
①長期的に安定した価格で電力を調達できる
電力価格の長期的な安定化を図れる点は、コーポレートPPAの代表的なメリットです。
発電事業者との契約内容にもよりますが、コーポレートPPAでは、15年~25年の長期間にわたり安定した価格で再エネ電力を調達できます。
AI向けデータセンターの建設による電力需要の増大や、地政学的リスクの高まりによるエネルギーコストの上昇などの影響により、世界中で安定したエネルギーの確保が課題となっています。化石燃料由来のエネルギーに頼らず、長期的に安定した価格で再エネ電力を調達できるコーポレートPPAの仕組みは、エネルギーのほとんどを輸入に頼っている日本にとって有効な価格ヘッジ手段となっていくでしょう。
②カーボンニュートラルの実現に貢献できる

カーボンニュートラルへの取り組みを後押しできる点も、コーポレートPPAの大きなメリットです。
コーポレートPPAで作られた再エネ電力を使用することで、自社が間接的に排出する発電所での温室効果ガスを削減したものと見なすことができます。また、コーポレートPPAを活用することで再エネ電力の需要が高まり、新たな再エネ発電所の建設を後押しする機運を醸成することができます。
コーポレートPPAの活用を通じて再エネ電力の需要を高めることは、日本が目指す2050年のカーボンニュートラル実現に貢献できる取り組みです。
③企業のESG評価・ブランド価値の向上につながる
コーポレートPPAは、企業のESG評価・ブランド価値の向上にもつながります。
世界的なSDGsやESG投資への関心の高まりから、企業の持続可能性の高さは顧客や取引先、金融機関、投資家の重要な評価指標の1つになっています。例えば、価格や機能が似たものであれば、より温室効果ガスの排出削減に配慮している企業の製品が選ばれる傾向があります。
コーポレートPPAを活用することで、温室効果ガスの排出削減に取り組む姿勢を示すことや、環境価値の証明書を取得してCDPやSBT、RE100などの国際的なイニシアチブに参加することは、企業のESG評価やブランド価値の向上につながる可能性が高いです。その結果、自社の競争優位性を高め、長期的な成長も期待できます。
コーポレートPPAのデメリット・注意点

コーポレートPPAの主なデメリット・注意点は以下の3つです。
- 長期契約によるリスクがある
- 市場価格の下落時に損をする可能性がある
- 契約や制度が複雑で専門知識を要する
それぞれを解説します。
①長期契約によるリスクがある
1つ目のコーポレートPPAのデメリット・注意点は、長期契約によるリスクがあることです。
オンサイトPPAの契約期間は15年~25年の長期にわたる場合が多く、この期間内に自社の敷地や建物の建て替え、移転、売却の予定がないことが前提となります。また、オフサイトPPAの場合も、5~20年程度の長期契約が前提です。やむを得ず中途解約する場合は、相応の違約金の支払いが必要になることが多いです。コーポレートPPAを契約する場合は、長期的な事業計画を前提にして、中途解約が発生しないようにご注意ください。
また、長期契約の場合、発電事業者の事業停止や倒産、差額の未払いなどのリスクにも注意する必要があります。コーポレートPPAの契約先の選定には、より慎重な決断が必要です。
②市場価格の下落時に損をする可能性がある

2つ目のコーポレートPPAのデメリット・注意点は、市場価格の下落時に損をする可能性があることです。
世界的なエネルギー需要の高まりや円安の影響により、日本のエネルギーコストはここ数年で上昇傾向にあります。エネルギーコストの上昇局面では、コーポレートPPAの安定的な電力価格は大きな魅力となります。しかし、長期的にエネルギーコストの上昇が続くかどうかは未知数です。例えば、革新的な発電技術の開発や、産油国の増産、蓄電技術の発展などにより、電力料金の長期的な下落が発生しないとも限りません。
エネルギーコストが長期的に下落した場合、自社は市場価格よりも高いコストを支払い続ける必要があります。こうしたリスクをヘッジするためには、コーポレートPPA以外にも電力の調達先を分散しておくことが大切です。
③契約や制度が複雑で専門知識を要する
3つ目のコーポレートPPAのデメリット・注意点は、契約や制度が複雑で専門知識を要することです。
コーポレートPPAには、オンサイトPPAとオフサイトPPAがあり、オフサイトPPAの中にはフィジカルPPAとバーチャルPPAがあります。また、発電事業者と自社の2社間で契約する場合や、電力会社も交えた3社間契約を結ぶ場合もあります。
さらに、Scope2の温室効果ガス排出量を計算したり、環境価値の証明書を国際的なイニシアチブの報告に活用したりする必要があります。バーチャルPPAの場合は、デリバティブ取引として差金決済を正しく処理する必要もあります。
このようにコーポレートPPAでは、法務や会計、金融、税務などの高度な専門知識が必要となる場面が想定されます。適切な契約や運用、リスク管理を行うためには、高度な専門知識を有する社員が内部に必要です。社内に専門的な人材がいない場合は、外部の専門機関などを活用する必要があるでしょう。
まとめ コーポレートPPAについて

今回は、コーポレートPPAの概要やメリット・デメリット(注意点)について解説しました。
コーポレートPPAは、自社で発電設備を導入できない場合でも、企業が再エネ電力を有効に活用できる手段の1つです。コーポレートPPAを有効活用できれば、長期的に安定した価格で電力を購入できたり、環境価値の証明書が発行できたりするというメリットがあります。
一方で、コーポレートPPAの契約や制度は複雑で、専門的な知識を必要とします。また、電力の市場価格が下落した場合には損をする可能性もありますので、長期契約によるデメリットもしっかりと把握しておくことが大切です。
コーポレートPPAを活用する場合は、必要に応じて専門家の支援なども得ながら、最適なスキームを構築していきましょう。適切なリスクヘッジを行うことで、再エネ由来のエネルギー調達と企業価値向上を同時に実現できるチャンスがあります。
GREEN CROSS PARKのGX

東急不動産の「GREEN CROSS PARK(グリーンクロスパーク)」は、企業活動と環境配慮を両立させる産業まちづくり事業です。再生可能エネルギーの活用やカーボンマネジメントにより、脱炭素社会への移行をエリア全体で実践し、未来志向の産業団地として進化を続けています。