GX(グリーントランスフォーメーション)、脱炭素が国策として加速する中、2025年に「GX戦略地域制度」が創設されました。地域レベルで戦略的にGX関連産業を集積させる枠組みはどのようなものなのでしょうか。本記事ではGX戦略地域とは何か、GX戦略地域の3類型、各類型に対して検討されている支援内容について解説します。
GX戦略地域とは

GX戦略地域とは、政府がGX(グリーントランスフォーメーション)※1政策の実現に向け、地域レベルでのGX産業構造の形成・拠点化を進めるための枠組みです。2025年8月に創設され、自治体からの提案をもとに有望な地域の選定が進められています。
※1 GX(グリーントランスフォーメーション):従来の化石燃料中心の社会・産業構造から、クリーンエネルギー中心へと転換しつつ、経済成長と脱炭素の両立を図ることを目指す国家戦略
政府からは現在、「コンビナート等再生型」、「データセンター集積型」、「脱炭素電源活用型」の3つの類型でGX戦略地域を選定するための公募が行われています。
GX戦略地域は国が公募し、都道府県または政令指定都市等の自治体が申請者という枠組みとなっています。申請者は地域のGX戦略や計画の策定、国への提案・応募、地域のインフラ条件や産業集積ポテンシャルの整理、他の企業・事業者の誘致活動を実行します。企業や他の自治体との共同申請(コンソーシアム形成)も可能となっており、様々な組織を巻き込んだプロジェクトとして計画できることもポイントです。
GX戦略地域の取り組みの特徴は、地域ごとにGX関連産業の立地促進や実装を進めるための制度的基盤と支援策を一体で講じる仕組みであることです。単なる金銭的支援ではなく、地域のGX推進のために必要な官民連携と制度や環境の整備まで、包括的に行う取り組みです。
GX戦略地域によって、既存のインフラ(工業地域、電力、港湾など)や地域の産業ポテンシャルを活かし、GX関連企業やプロジェクトの集積を図ることができます。地域特性やインフラを活用した戦略的な立地促進を行う狙いです。また、地域に集積することで地域内の企業や産業がGX関連分野へ転換・新規参入しやすくなり、サプライチェーン全体の高度化・競争力強化につながります。地域一体となって参加することで、脱炭素電源の活用が拡大し、CO2排出削減効果も高まります。
GX戦略地域が創設された背景・趣旨

日本政府は2025年2月に「GX2040ビジョン」を閣議決定しました。これは政府のGXに向けた方針を示したものであり、その中でも特に「GX産業立地政策」が重要な柱として位置づけられています。それを受け、地域レベルで戦略的にGX関連産業を集積させる枠組みとして「GX戦略地域」が創設されたという背景があります。GXにおいて重要な要素として、脱炭素電源、データセンター、AI等の集積と活用があり、それを一箇所にまとめてスケールメリットを出すことで、今後の地方創生と経済成長につなげていくという狙いもあります。
参考:経済産業省『GX2040ビジョン~脱炭素成長型経済構造移行推進戦略改訂~』
GX戦略地域の類型とは

GX戦略地域はコンビナート等再生型、データセンター集積型、脱炭素電源活用型という3つの類型があり、それぞれの自治体に沿った計画を立て申請します。3つの類型について解説します。
コンビナート等再生型
既存のコンビナートや製造拠点、産業団地などにある資産を活用して、GX関連の新規事業や産業集積の創出を図る類型です。従来産業の縮小・再編で優れた立地(港湾、送電・輸送インフラ、水素パイプラインなど)を持つ地域を、GX新産業の舞台に転換することを目的としています。
経済産業省の公募要領には「インフラ整備に関する観点」という項目で下記のように記されています。
“既存の産業インフラが整っているコンビナート等の跡地や空きスペースの土地利用転換等により、GX産業創出拠点としての大規模な産業用地を有していること、またはその整備を行う計画を有していること”
また、「競争力強化に関する観点」では
“・新たに生まれるGX事業でTRL※2 の高い技術が活用されていること。新事業によって生み出される製品・サービスのオフテーカー※3 がつく見込みがあること(LOI※4 締結等)
・AIやロボット等のデジタル技術を活用したDX※5 に取り組んでいること、またはその計画を有していること
・事業の収益性の裏付けとして民間資金の調達や補助金以外の金融手法の活用を含め、実現可能な資金調達・事業計画を有していること”
等が評価のポイントとして記されています。
引用:経済産業省『「GX戦略地域」の選定に関する公募要領(コンビナート等再生型)』
※2 TRL(Technology Readiness Level):技術の成熟度を示す指標。研究段階から実用・商用化までを段階的に評価するために用いられる。
※3 オフテーカー:事業によって生み出される製品やエネルギーを購入・利用する主体。事業の収益性や実現可能性を左右する重要な存在。
※4 LOI(Letter of Intent):将来的な取引や事業実施に向けた意思を示す文書。契約締結前の段階で、当事者間の基本的な合意や意向を確認する目的で用いられる。
※5 DX(デジタルトランスフォーメーション):デジタル技術を活用して、業務プロセスやビジネスモデル、組織のあり方を変革し、企業や社会の競争力や価値を高める取り組み。
データセンター集積型
データセンター(DC)を中心に、電力・通信インフラの条件を踏まえて適切な立地形成を進める取り組みです。生成AIやDXの普及に伴い、大規模な電力と高速通信が必要なデータセンターの需要が急増しています。脱炭素電源の導入やワット・ビット連携※6 などにも対応した電力系統と通信網を戦略的に整備し、GXを実現するデータセンター集積拠点を形成することが狙いです。
※6 ワット・ビット連携:電力インフラと情報通信インフラの連携
経済産業省の公募要領には「インフラ整備に関する観点」という項目で下記のように記されています。
“地盤が安定している・災害リスクの低いエリアを確保できること(例:水害、南海トラフ・首都直下地震リスク)”
また、「脱炭素に関する観点」では
“域内への脱炭素電源の更なる供給や脱炭素電力の利用拡大(集積拠点に立地するデータセンター事業者に活用させることを含む)に向けての計画を有するなど、自治体が脱炭素電源の活用に対して意欲的であること脱炭素電力の更なる活用に貢献できると見込まれる立地であること”
とも記されており、単にデータセンターに電力供給できるだけでなく、それが脱炭素電源によって作られた電力かどうかが評価のポイントになることがわかります。
引用:経済産業省『「GX戦略地域」の選定に関する公募要領(データセンター集積型)』
脱炭素電源活用型(GX産業団地)
地域に偏在する脱炭素電源(再生可能エネルギー等)を核に、GXに資する産業・供給構造を高度化する取り組みです。再生可能エネルギー(太陽光・風力・地熱・水力等)を計画的に供給・活用し、サプライチェーン全体の脱炭素化を進める産業団地や地域計画が対象となります。
経済産業省の公募要領には「競争力強化に関する観点」という項目で下記のように記されています。
“地域の脱炭素電源を核としつつ、GX産業団地の整備を通じた産業集積により、(Ⅰ)産業競争力の強化、(Ⅱ)地域経済の活性化、(Ⅲ)雇用の拡大・創出、(Ⅳ)地域課題の解決を実現できる具体的かつ実現性の高い計画が策定できていること”
さらに、「脱炭素に関する観点」では
“団地の分譲要件や一括受電により、入居企業に対して以下の要件を課す団地を造成/分譲すること
•脱炭素電力を100%活用すること
•申請自治体※の脱炭素電源を積極的に活用すること ※都道府県/市区町村/広域連携エリア”
•PPA※7 や自家発電を積極的に活用すること
•新設・再稼働電源を積極的に活用すること
となっており、単なる脱炭素電力を活用した産業団地ではなく、100%脱炭素電力を使用し、さらに産業や雇用など地域経済の活性化につながる計画が求められています。
引用:経済産業省『「GX戦略地域」の選定に関する公募要領(脱炭素電源活用型)』
※7 PPA(Power Purchase Agreement):発電事業者と需要家が直接締結する電力購入契約。再生可能エネルギー電源を長期・安定的に確保する手法として活用されている。
GX戦略地域で受けられる支援内容

まず、2026年1月時点では補助金や交付金等の具体的な支援内容の詳細は公表されていません。一方で、経済産業省は2025年8月26日の制度創設時の発表で「規制・制度改革と支援策を一体で措置する」と明記しています。おそらく財政支援も行われる見通しです。ただし、制度の詳細や具体的な支援内容については今後の政策動向や制度設計の進展により変更される可能性があり、現時点で未公開な点もあります。
国全体のGX投資促進策としては、「GX経済移行債」を活用して約20兆円規模の先行投資支援を実行していく方針を示しています。
参考:経済産業省『GX経済移行債を活用した投資促進策について』
ここからは内閣官房GX実行推進室が令和7年10月7日に発表した「GX産業構造実現のためのGX産業立地政策について-第5回GX産業構造実現のためのGX産業立地ワーキンググループ事務局資料」を元に現在検討されている支援の方向性を、3類型別に紹介します。具体的なアクションは全ての類型でまだ未公開です。
コンビナート等再生型への支援
コンビナート再生型では「インフラ転換や企業誘致、事業収益性の向上を大胆に支援」という方向性が検討されています。具体的な支援内容としては、
・既存設備の撤去やGXに必要な新たな共同インフラの整備
・GX新事業の担い手を国内外から幅広く呼び込み
・資本効率・収益性向上、価格低減を前提とした需要創造支援、公共インフラの整備等の事業収益性を向上させる仕組み
に関することを検討しているということです。
データセンター集積型への支援
データセンター集積型では「電力系統その他インフラの整備促進、DCの利活用施策(=AI関連施策)を一体的に講じていく」という方向性が検討されています。具体的な支援内容としては、
・電力・通信インフラの計画的・先行整備
・その他インフラ整備
・AI関連政策との連携
に関することを検討しているということです。
脱炭素電源活用型(GX産業団地等)への支援
脱炭素電源活用型(GX産業団地等)では、下記のような支援の方向性が検討されています。
・GX産業団地の造成に取り組もうとする自治体に対して、①産業団地の整備、②電源等の整備、③当該団地への進出企業支援を一体的に提供していく
・「GX産業団地へ進出し、脱炭素電源を活用しながらGX関連投資を行う事業者」に対しての投資支援
また、域外から立地地域に貢献する事業者や、新設・再稼働電源をPPAで活用しつつ当該電源立地自治体に企業立地する企業にも支援を行うことを検討しているようです。
参考:内閣官房GX実行推進室『GX産業構造実現のためのGX産業立地政策について-第5回GX産業構造実現のためのGX産業立地ワーキンググループ事務局資料』
自治体や大企業だけでなく中小企業も対象になるか

GX戦略地域は申請当初は自治体やそこに深く関わる大企業・先端企業が中心となるであろうことは予測できますが、中小企業が対象にならないかというとそうではありません。むしろGX戦略地域においては、サプライチェーンを担う多くの中堅企業・中小企業のプロジェクト参画は欠かせませんし、中小企業の持つ技術・製造能力を活かす機会も多いはずです。別事業ですがGXサプライチェーン構築支援事業のような支援事業では中小企業に有利な補助率が設定されており、GX戦略地域においてもこうした支援策が実施されることは期待できます。
仮に自社が事業を行う地域がGX戦略地域に指定された場合に、サプライチェーンに組み込まれることで大きな恩恵があるため、今のうちに自社のGX対応を進めておくということが重要です。
GXに対応することがGX戦略地域への準備となる

GX戦略地域はまだ発表されたばかりの制度になるため、具体的な支援策等はわからない部分が多いです。しかし、自治体が主体の申請者になるため、気がついたら自社がGX戦略地域の当事者になっているというケースは多いと予測できます。GX戦略地域に指定されることは新産業・新市場の成長のチャンスであり、チャンスを逃さないためにはGXへの対応を進めておくことが鍵となります。
GREEN CROSS PARKのGX

東急不動産が推進する「GREEN CROSS PARK(グリーンクロスパーク)」は、企業活動と環境配慮の両立を実現することを目的とした次世代型の産業まちづくりプロジェクトです。再生可能エネルギーの活用やカーボンマネジメントの導入を通じて、エリア全体で計画的に脱炭素化を推進。個々の企業の取り組みにとどまらず、産業団地全体を一体的に脱炭素化する仕組みを構築しています。こうした取り組みにより、持続可能な企業立地と地域価値の向上を両立させる産業拠点として、次世代の地域づくりを牽引していきます。