SBT認定とは?企業がSBT認定を取得するメリットや取得状況、注意点などを解説

SBT認定とは?企業がSBT認定を取得するメリットや取得状況、注意点などを解説

SBT認定とは、世界基準に基づく温室効果ガス排出削減目標にコミットし、積極的に地球温暖化防止に取り組んでいる企業として認定されることです。SBT認定を取得することには、環境問題に配慮した企業であるという意味だけでなく、企業の中長期的な成長と価値向上に大きな影響を与える可能性があります。

今回は、SBT認定の概要やメリット、認定の流れ、注意点について解説します。

脱炭素経営やカーボンニュートラルに課題を抱える企業の方は、ぜひ最後までお読みください。

SBT認定とは?

SBTとは、『Science Based Targets』の略で、パリ協定が求める水準(世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る温度(Well Below 2℃:WB2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの)と整合した、5年~15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のことです。

SBT認定とは、SBTの運営機関であるSBTi(Science Based Targets initiative)を構成する以下の4つの組織が、We Mean Business※1(WMB)の取り組みの一つとして実施する認定制度です。SBT認定を受けることで、パリ協定が求める水準と整合した温室効果ガス排出削減目標にコミットした企業であることが認められ、持続可能性の高い事業を行う企業として国際的にアピールすることができます。

※1 We Mean Business:企業や投資家の温暖化対策を推進している国際機関やシンクタンク、NGO等が構成機関となって運営しているプラットフォーム

SBTi組織図

CDP:企業の気候変動、水、森林に関する世界最大の情報開示プログラムを運営する英国で設立された国際NGO。

UN Global Compact(国連グローバル・コンパクト):参加企業・団体に「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4分野で、本質的な価値観を容認し、支持し、実行に移すことを求めているイニシアティブ。

WRI(世界資源研究所):気候、エネルギー、食料、森林、水等の自然資源の持続可能性について調査・研究を行う国際的なシンクタンク。

WWF(世界自然保護基金):生物多様性の保全、再生可能な資源利用、環境汚染と浪費的な消費の削減を使命とし、世界約100カ国以上で活動する環境保全団体。

出典:環境省:『SBT(Science Based Targets)について』

中長期的な企業の成長と価値向上を目指すためには、いち早くSBT認定を取得することをおすすめします。SBT認定には、さまざまなメリットが期待できるからです。

企業がSBT認定を取得するメリット

企業がSBT認定を取得することで期待できる主なメリットは以下の5つです。

  • エネルギーコストの削減が期待できる
  • 投資家からのESG投資の呼び込みに役立つ
  • リスク意識の高い顧客の声に答えられる
  • サプライチェーンの調達リスク低減やイノベーションの促進につながる
  • 社内で画期的なイノベーションを起こそうとする機運が高まる

それぞれを解説します。

エネルギーコストの削減が期待できる

1つ目のSBT認定のメリットは、エネルギーコストの削減が期待できることです。

SBT認定の取得には、科学的根拠に基づいた温室効果ガス(GHG)排出削減計画を策定し、実行することが求められます。そのためには、自社の直接的な温室効果ガスの排出(Scope1)だけでなく、電力調達などの間接的な温室効果ガスの排出(Scope2)や、自社が属するサプライチェーン全体の温室効果ガスの排出(Scope3)を適切に測定し、削減目標の設定と具体的な対策が必要となります。

その結果、より低コストなエネルギー調達や、技術革新による効率的なエネルギー消費が可能になり、中長期的にはエネルギーコストの大幅な削減が期待できます。例えば、太陽光による自家発電設備の設置に取り組めば、長期的には初期投資額を上回るエネルギーコストの削減効を得ることも可能となります。

投資家からのESG投資の呼び込みに役立つ

2つ目のSBT認定のメリットは、投資家からのESG投資の呼び込みに役立つことです。

年金基金等を運用する機関投資家は、中長期的なリターンを得るために、企業の持続可能性を評価します。持続可能性が低い事業は、カーボンニュートラルが求められる社会で生き延びることが難しくなっていくと予想されるからです。CDP※2に署名する機関投資家は年々増えているため、SBT認定を取得することでCDPの点数を高めることは、ESG(環境、社会、ガバナンス)を重視する多くの機関投資家への良いアピールとなります。

※2 CDP:投資家向けに企業の環境情報の提供を行うことを目的とした国際的なNGO。気候変動等に関わる事業リスクについて、企業がどのように対応しているか、質問書形式で調査し、評価したうえで公表するもの。

投資家の信頼が向上

* 2018 YouGov survey of 185 company executives from SBTi committed businesses.

出典:Science Based Targets initiative (SBTi)『Six business benefits of setting science-based targets』

実際、SBTにコミットした企業のうちの185社の役員にアンケートを実施したところ、およそ52%がSBTへのコミットが投資家の信頼を向上させていると回答しています。
* 2018 YouGov survey of 185 company executives from SBTi committed businesses.

参考:Science Based Targets initiative (SBTi)『Six business benefits of setting science-based targets』

リスク意識の高い顧客の声に応えられる

3つ目のSBT認定のメリットは、リスク意識の高い顧客の声に応えられることです。

効率化やグローバル化が進む企業経営においては、多くの企業と連携したサプライチェーンが構成されます。SBT認定では、自社の直接的な温室効果ガスの排出(Scope1)だけでなく、間接的な排出(Scope2)やサプライチェーン全体での排出(Scope3)の削減も求められます。

そのため、SBT認定を取得した大企業やSBT認定の取得を目指す大企業では、SBTの目標達成のためにサプライヤーに対しても温室効果ガスの排出削減を求めるケースが増えています。

SBT認定を取得した大企業・SBT認定の取得を目指す大企業

出典:環境省『SBT(Science Based Targets)について』

SBT認定を取得した企業は、リスク意識の高い顧客企業からの要望に柔軟に応えることができます。これは環境問題の解決に貢献できるだけでなく、自社の安定的な経営にもつながるメリットです。また、世界的なSDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりなどにより環境意識の高い消費者も増えているため、持続可能性に優れた商品やサービスを提供する企業は多くの消費者の支持を集められる可能性が高いでしょう。

ブランド評価が向上

* 2018 YouGov survey of 185 company executives from SBTi committed businesses.

出典:Science Based Targets initiative (SBTi)『Six business benefits of setting science-based targets』

実際、SBTにコミットした企業のうちの185社の役員にアンケートを実施したところ、およそ79%がSBTへのコミットが自社ブランドの評価を向上させていると回答しています。

55%自社の競争力が向上

* 2018 YouGov survey of 185 company executives from SBTi committed businesses.

出典:The Science Based Targets initiative (SBTi)『Six business benefits of setting science-based targets』

また、およそ55%は、SBTへのコミットが自社の競争力を向上させていると回答しています。

参考:Science Based Targets initiative (SBTi)『Six business benefits of setting science-based targets』

一方、SBT認定を取得していない企業や、持続可能性への取り組みが十分でない企業は、リスク意識の高い顧客企業から発注が減少したり、最悪の場合はSBT認定を受けている大企業のサプライチェーンに参画しにくくなるなどのリスクがあるため注意が必要です。また、自社のブランド価値や競争力が低下することにより、環境意識の高い消費者から自社の商品やサービスが選ばれにくくなる可能性が考えられます。

サプライチェーンの調達リスク低減やイノベーションの促進につながる

4つ目のSBT認定のメリットは、サプライチェーンの調達リスク低減やイノベーションの促進につながることです。

SBTでは、サプライチェーン全体の排出( Scope3)への対応も求められます。自社のサプライヤーが環境対策に取り組まない場合、結果的に自社の評判の低下や、排出規制によるコスト増といったサプライチェーンのリスクになりえます。

サプライチェーンには、物理的・評判・規制のリスクがあり、これらのリスクを低減させるためには、サプライヤーに対して環境対策に取り組むことを求める必要があります。

サプライチェーンを取り巻くリスク

出典:環境省『SBT(Science Based Targets)について』

自社のサプライヤーにも環境対策を求めることにより、サプライチェーン全体で温室効果ガスの削減に向けた取り組みを強化することができます。また、SBT認定への取り組みを進めることで、温室効果ガスの削減に貢献する技術革新や新たな価値の創出が促進され、サプライチェーン全体でイノベーションが進む可能性があります。

例えば、アメリカのケロッグ社では、SBT認定を取得することで全サプライヤーにScope3の目標を設定。それが革新技術研究の動機づけになり、自社で使用する燃料電池技術の開発につながりました。

社内で画期的なイノベーションを起こそうとする機運が高まる

5つ目のSBT認定のメリットは、社内で画期的なイノベーションを起こそうとする機運が高まることです。

SBTで求められる削減の水準は、既存技術の活用だけでは実現できるものは少ないです。そのため、SBTの目標を達成するための活動は、社内で画期的なイノベーションを起こそうとする機運を高めることにもつながります。

イノベーションを推進

* 2018 YouGov survey of 185 company executives from SBTi committed businesses.

出典:he Science Based Targets initiative (SBTi)『Six business benefits of setting science-based targets』

実際、SBTにコミットした企業のうちの185社の役員にアンケートを実施したところ、およそ63%がSBT目標の設定がイノベーションを推進させていると回答しています。

参考:Science Based Targets initiative (SBTi)『Six business benefits of setting science-based targets』

中長期的な成長や新たな価値の創出を狙う企業には、SBT認定を取得するメリットは大きいです。他者よりもいち早くSBT認定を取得し、脱炭素やカーボンニュートラルに向けた取り組みを加速させることをおすすめします。

SBT認定の状況

2025年11月現在、SBT認定の取得、または2年以内に認定を取得することをコミットする日本企業の数は、2,000社を超えています。2020年時点では100社であったため、わずか5年間で20倍の日本企業がSBTの取得またはコミットをしています。

内訳としては、東証プライム市場に上場する企業1,612社のうち約18%、日経平均構成銘柄に選定されている企業のうち117社(約52%)が、SBTの認定・コミットを行っています。国際的なネットゼロ目標年である2050年までにネットゼロ※3を達成することを目標としてSBT認定を取得した日本企業は91社、そのうち10年前倒した2040年、もしくはそれ以前にネットゼロを実現することを目標としてSBT認定を取得した日本企業は13社となっています。

なお、2025年1月の時点で、世界全体では10,000社がSBTの取得・コミットを行っており、日本はSBTの取得・コミットの企業数で世界1位となっています。

参考:公益財団法人世界自然保護基金ジャパン『日本企業のSBT取得・コミットが2,000社超え、5年で20倍に』

※3 ネットゼロ(net zero): 事業活動で排出する温室効果ガス(Scope1・2・3を含む)を削減し、残余分を吸収・除去で相殺して実質的にゼロとすること

参考:環境省『エコジン』

SBT認定の流れ

SBT認定のおおまかな流れは以下の通りとなります。(2025年11月時点情報)

①【任意】Commitment Letterを事務局に提出

  • 2年以内にSBT設定するという宣言
  • SBT事務局、CDP、WMBのウェブサイトにて公表

記載事項は下記の2点

  1. 企業情報
  2. 日付、場所、署名

②目標を設定し、SBT認定を申請

・Target Submission Form(目標認定申請書)を事務局に提出

記載事項は下記の12点

  1. 目標の妥当性確認に関する要望
  2. 基本情報(企業名、連絡先など)
  3. GHGインベントリに関する質問(組織範囲など)
  4. Scope1,2に関する質問
  5. バイオエネルギーに関する質問
  6. Scope3に関する質問
  7. 算定除外に関する質問
  8. GHGインベントリ情報(Scope1,2,3排出量)
  9. 削減目標(Scope1,2,3目標)
  10. 目標の再計算と進捗報告
  11. 補足情報
  12. 申請費用の支払情報

③SBT事務局による目標の妥当性確認・回答(有料)

  • 事務局は認定基準への該否を審査し、メールで回答(否定する場合は、理由も含む)
  • 目標の妥当性確認には、USD11,000(外税)の申請費用が必要(最大2回の目標評価を受けられる)
  • 以降の目標再提出は、1回につきUSD5,500(外税)の申請費用が必要

 ●再提出は1回の目標のみを評価する

 ●再提出の申請費用は、以下の企業に適用される 

  1. 少なくとも一度は目標妥当性確認のサービスを利用した企業
  2. 既に認定を受けており、目標の更新を目指す企業

④認定された場合は、SBT等のウェブサイトにて公表

⑤排出量と対策の進捗状況を、年一回報告し、開示

⑥定期的に、目標の妥当性の確認

・大きな変化が生じた場合は必要に応じ目標を再設定(少なくとも5年に1度は再評価)

参考:環境省『6. SBTの手続き』

参考:環境省『【参考①】中小企業向けSBT』

SBT認定のポイント

目標年:申請時から5年以上先、10年以内の任意年

基準年:最新のデータが得られる年での設定を推奨

    削減対象範囲

    Scope1,2,3排出量。

    但し、Scope3がScope1~3の合計の40%を超えない場合には、Scope3目標設定の必要は無し

目標レベル:下記水準を超える削減目標を任意に設定

    ■Scope1,2(1.5℃:少なくとも年4.2%削減)

    Scope3の目標は、以下のいずれかを満たす「野心的な」目標を設定する

    (総量削減か原単位削減、あるいはサプライヤー/顧客エンゲージメント目標)

    ■Scope3(Well below 2℃:少なくとも年2.5%削減)

参考:環境省『7. SBTの認定基準』

参考:環境省『【参考①】中小企業向けSBT』

SBT認定の費用

目標妥当性確認サービスはUSD11,000(外税)。以降の目標再提出は、1回USD5,500(外税)となります。(最大2回の目標評価を受けられます。)

目標提出後、事務局による審査(最大30営業日)が行われます。事務局からの質問が送られる場合もあります。

参考:環境省『【参考①】中小企業向けSBT』

SBT認定の注意点

SBT認定の主な注意点を3つ解説します。

  • 目標に対する進捗を年に1度報告する義務がある
  • 他社のクレジットの取得による削減は算入できない
  • 中小企業版SBT認定がある

それぞれを解説します。

目標に対する進捗は年に1度報告する義務がある

1つ目のSBT認定の主な注意点は、目標に対する進捗を年に1度報告する義務があることです。

SBT認定を受けた企業は、設定した温室効果ガス(GHG)削減目標に対する進捗状況を毎年開示する義務があります。つまり、SBT認定は一度取得すればそれで終わりではなく、目標達成するための温室効果ガスの削減に取り組み続ける必要があるということです。

報告の際には、目標に対する進捗だけでなく、GHG排出量インベントリ(一定期間内に特定の物質がどの排出源・吸収源からどの程度排出・吸収されたかを示す一覧表)も開示する必要があります。

なお、最低5年ごとに⽬標の⾒直しも⾏い、SBTiが⽬標の⽔準を変更した場合や、⾃社の組織範囲が基準年から⼤きく変化した場合等には、⽬標の再計算を実施する必要もあります。

他社のクレジットの取得による削減は算入できない

2つ目のSBT認定の主な注意点は、他社のクレジットの取得による削減は算入できないことです。

他社のクレジット(排出権)を取得して自社の排出量を削減したことにしても、地球全体の温室効果ガス排出量は削減したことになりません。SBTでは全体の総量を削減することを求めていますので、他社から購入したクレジット(排出権)による削減量は、SBT達成のカウントに含めることはできません。

ただし、SBTが要求する以上の削減を企業が実施している場合、さらなる削減努力としてクレジット(排出権)を取得することは認められています。また、経済産業省、環境省、農林水産省が運営するJークレジット制度の内、再エネ電力・再エネ熱由来のJークレジットはSBTの目標達成において再エネ調達量として報告が可能です。

中小企業版SBT認定がある

3つ目のSBT認定の主な注意点は、中小企業版SBT認定があることです。

SBT認定には、主に大企業向けとなる通常版のSBT認定と、中小企業向けのSBT認定があります。

中小企業版のSBT認定の対象となる企業は、以下の5つの項目をすべて満たす企業です。(2025年11月時点情報)

1. Scope1とロケーション基準のScope2の排出量合計が10,000 tCO2e未満であること

2. 海運船舶を所有または支配していないこと

3. 再エネ以外の発電資産を所有または支配していないこと

4. 金融機関セクターまたは石油・ガスセクターに分類されていないこと

5. 親会社の事業が、通常版のSBTに該当しないこと

さらに、以下の4項目のうち3項目以上を満たす必要があります。

1. 従業員が250人未満であること*

2. 売上高が5,000万ユーロ未満であること**

3. 総資産が2,500万ユーロ未満であること**

4. 森林、土地および農業(FLAG)セクターに分類されないこと

*組織が雇用する全ての従業員数。パートタイマーの従業員を含む

** 申請を行う事業者が、新たな要件に準拠しているかの確認を行うために、収益と資産額を確認できる財務諸表の提出が必要

参考:経済産業省『【参考①】中小企業向けSBT』

目標年は2030年で、基準年は2015年~2023年から選択できます。削減対象範囲はScope1,2となり、目標レベルはScope1,2で1.5℃(少なくとも年4.2%削減)となります。費用は1回USD1,250(外税)となっています。

中小企業版SBT認定を取得することで、温室効果ガス排出削減に積極的に取り組む企業であることを顧客にアピールできることはもちろん、SBT認定に取り組む大企業からの評価向上や新たな取引先の獲得につながる可能性があります。

まとめ SBT認定について

今回は、世界基準の温室効果ガス排出削減目標にコミットし、積極的に地球温暖化防止に取り組んでいる企業として認定されるSBT認定について解説しました。

SBT認定の取得は、企業の長期的な成長や新しい価値の創造につながる取り組みです。SBT認定を取得した企業や、取得に向けた取り組みを進める企業は、カーボンニュートラルを進める大企業のサプライチェーンに参加できたり、顧客や投資家の評価が高まったりする可能性があります。

中小企業向けのSBT認定制度もありますので、自社に合った脱炭素経営やカーボンニュートラルを進めていきましょう。

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東急不動産の「GREEN CROSS PARK(グリーンクロスパーク)」は、企業活動と環境配慮を両立させる産業まちづくり事業です。再生可能エネルギーの活用やカーボンマネジメントにより、脱炭素社会への移行をエリア全体で実践し、未来志向の産業団地として進化を続けています。

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