2026年5月12日(火)に会場+オンラインのハイブリッドで開催された「九州企業立地セミナー&交流会 in 東京 ~日本製造業の復活戦略とフィジカルAI実装~」。今回はそのレポートをお届けします。本セミナーでは、半導体投資の加速、サプライチェーン再編、GX対応の高度化を背景に、成長エリアである九州を舞台とした製造拠点戦略について、多角的な視点から解説が行われました。フィジカルAIの実装による生産性向上、脱炭素と競争力を両立する工場モデル、BCPを前提とした拠点戦略に加え、最新の産業団地情報や官民連携による支援体制も紹介され、これからの「選ばれる製造拠点」の条件について議論が交わされました。
| 主催:東急不動産株式会社 共催:佐賀県・鳥栖市 後援:一般社団法人 九州経済連合会 |
ダイジェスト動画
※本動画内の発言は出演者個人の見解であり、当社の見解を示すものではありません。
「佐賀から世界へ」
登壇者
佐賀県知事
山口 祥義氏

佐賀県はここ10年、本来その土地が持つポテンシャルを存分に発揮している。工業地の地価上昇率は2026年に2年ぶりに全国一位へと返り咲いた。背景としては、九州における南北東西軸のクロスポイントであり、交通の要衝に位置するという強みがある。また、九州の中で古来から地震が非常に少なく、企業が進出する上でのリスクが少ないのも魅力だ。さらに、仮に災害が起こった際にも、行政やNPOがオープンな体制で協力して対応にあたる土壌がある。
最近盛り上がっているのはコスメティック構想。佐賀大学が令和8年4月にコスメティックサイエンス学環を新設し、さらに令和9年3月には、最先端の技術と「アジアの美しさ」を佐賀から世界に発信する「コスメ国際フォーラム」をSAGAアリーナで開催。このように佐賀県は、世界へ向けて新たな産業や技術を発信していくために、企業・研究機関・地域社会が一体となり、継続的にチャレンジする姿勢で臨んでいく。
「最近の経済産業政策の動向について」
登壇者
経済産業省 経済産業政策局 地方創生担当 政策統括調整官
宮本 岩男氏

日本経済は長年続いたデフレ局面から転換し、物価上昇や金利上昇の兆しが見え始めた。一方、世界的には経済安全保障を重視した「自国回帰」の動きが強まっている。安いコストを目当てに海外に製造拠点を設けていた各国企業が、有事の際のリスクを最小限に抑える目的で国内サプライチェーン強化や国内生産回帰を進める中、日本でも製造拠点の国内整備が重要課題だ。
日本経済の潜在成長率は長らく低迷してきたが、その背景として設備投資などの「資本投入」が諸外国と比べて弱かったことが挙げられる。今後は成長分野への積極投資、さらにインフレを上回る賃上げを実現するためにも、生産性向上と高付加価値化への投資が必要不可欠だ。
こうした課題を踏まえ、政府は2030年に年間135兆円、2040年には年間200兆円規模の国内投資を目指している。その実現に向け、現在審議中の産業競争力強化法改正案では、大規模設備投資に対する税制優遇を導入し、一定以上の収益性や投資額を満たす案件について、即時償却や税額控除などの支援措置を講じる方針だ。さらに、企業立地を支える産業用地不足への対応として、地域未来投資促進法も改正に向けた審議を行っており、産業団地整備に関する税優遇や、自治体による固定資産税減免への国の補填制度拡充などを通じ、企業誘致を後押しする。今後は産業クラスター形成やインフラ整備を地域一体で進め、日本の成長産業集積を加速させていきたい。
「AI時代の製造業革新~データ駆動の現場改革~」
登壇者
日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員 エバンジェリスト
西脇 資哲氏

2022年のChatGPT登場以降、AIは世界中の情報を学習し、高度な知識や判断能力を持つ存在になった。日本では活用が諸外国に比べて遅れていたが、令和7年12月23日に日本政府が人工知能基本計画を閣議決定し「AIを使わないことが最大のリスク」と位置づけたのは大きなインパクトがあった。AI導入は単なるIT施策ではなく、人的資源と掛け合わせることで最大の価値を発揮するため、人材戦略・経営戦略と捉えることが企業にとって大切だ。
これからは「企業が保有するデータ」の価値にもっと着目すべき。生成AIが学習済みのデータは世界全体の0.0017%にすぎず、実際の競争力の源泉は企業内部に蓄積された設計データ、品質データ、設備データ、顧客情報、現場ノウハウなどにある。AI活用の本質は、どのAIモデルを選ぶかではなく、自社データをどう活用するかだ。
製造現場における具体的な活用例もすでに多数ある。作業者が口頭で報告した内容をAIが自動で日報化する仕組みや、不良品画像をもとに「なぜなぜ分析」を実施し不良原因や改善優先度を整理する機能、工程表からガントチャートや稼働率分析を自動生成など、かなり実用性が高い。また、CAD設計支援、製造マニュアル自動作成、保守・メンテナンス記録のナレッジ化などにより、AIが現場業務全体を支える役割を担っていくだろう。
また、生成AIとロボティクスが融合する「フィジカルAI」が注目されており、AIが実際の工場設備やロボット、インフラと結びつくにあたっては、安全性や安定性、継続運用が極めて重要になる。日本の製造業が持つ現場力や品質管理能力は、フィジカルAI時代において大きな強み。製造業とAI技術を融合させることで、日本の製造業は再び国際競争力を高められるはずだ。
「フィジカルAI時代の製造拠点~工場競争力とサプライチェーンの再編~」

登壇者(順不同)
株式会社圓窓 代表取締役 武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 専任教員(教授) 澤 円氏
早稲田大学 教授 AIロボット協会 理事長 尾形 哲也氏
株式会社SUMCO 取締役 専務執行役員 AI推進本部長 加藤 健夫氏
株式会社アールジーン 代表取締役 IoTNEWS AI+ 代表 小泉 耕二氏
本セッションでは、生成AIの急速な進化が、製造業や物流、工場運営にどのような変化をもたらすのかについて、4名の登壇者それぞれの専門領域を活かした視点から議論が展開された。

冒頭では、配膳ロボットのように「人に受け入れられるデザイン」が社会実装を後押ししている点が話題となり、人との共存が重要な時代に入っていることが共有された。特に近年は、従来型の産業ロボットとは異なり、AIが現実空間で動作する「フィジカルAI」が急速に進化している。登壇者からは、アメリカはAIソフトウェア領域、中国はロボットハードウェア領域で強みを持つ一方、日本は「ものづくり」とAIを融合させる領域で市場のシェアを取りに行けるという見解が示された。

一方で、日本の製造現場が直面する課題として、古い設備を有する工場を大規模刷新することが難しいという指摘があった。AI活用を前提に設計された新設工場とは異なり、既存工場ではネットワーク接続されていない設備も多く、データ取得や全体最適化が容易ではない。そのため、まずはAMR(自律走行搬送ロボット)や簡易なロボットハンドなど、部分的かつ導入しやすい技術から現場実装が進んでいる現状が紹介された。

また、AI活用を進める上で「完璧を求めすぎない姿勢」の重要性も強調された。日本企業は慎重な意思決定を得意とする一方、AI分野では変化速度が極めて速いため、従来のような意思決定スピードではチャンスを取りこぼすリスクが生じてしまう。PDCAにおいて計画(P)に時間をかけ過ぎるのではなく、まず実行し、改善を高速で回すことが競争力につながるとの意見が共有された。
さらに、フィジカルAIは「人を置き換える存在」ではなく、「人と協働する存在」として捉えるべきだという視点も印象的だった。自動化によって人員削減を目指すのではなく、人がより付加価値の高い仕事に集中できる環境を作ることが本質。その文脈を現場と共有することでAIに仕事を奪われるのではないかという現場の不安を払拭することにつながる。

今後AIやロボットがさらにスピード感を持って導入をさらに加速させるためには、単なる技術としてではなく、社会受容性や業務プロセス全体の中でどう位置づけるかが重要だ。例えば配膳ロボットが一般化した背景にも、「多少ミスをしても役に立つなら受け入れる」という社会側の変化があるという指摘があった。今後は、従来の産業ロボットの延長線ではなく、「現実世界で動く生成AI」という視点でフィジカルAIを理解する必要があるという。
最後には、「まず触ってみること」の重要性が繰り返し語られた。現在はNVIDIAをはじめとする企業が、シミュレーション環境や開発基盤を整備しており、以前よりも低コストで実験や検証を行える時代になっている。だからこそ、企業内部にAIと現場をつなぐ人材を育て、小さく試しながら自社なりの活用方法を見つけていくことが、これからの製造業に求められる姿勢であると締めくくられた。
新生シリコンアイランド九州実現に向けた取組をご紹介
登壇者
一般社団法人九州経済連合会 新生シリコンアイランド九州推進部 部長
山田 拓雄氏

九州経済連合会(九経連)は、産官学金を横断する「共創のハブ機能」を担い、インフラ整備、DX、スタートアップ支援、観光振興など幅広い地域活性化に取り組んでいる。
現在九州には半導体・エレクトロニクス関連企業が約1000社集積しており、国内IC生産額の約半数を占める一大拠点となっている。さらに2021年以降、TSMCをはじめとした大型投資が相次ぎ、公表ベースで5兆円超の投資が進行中だ。経済波及効果は10年間で23兆円に上るという。こうした状況を受け、九州地域戦略会議を中心に策定されたのが「新生シリコンアイランド九州グランドデザイン」だ。
この構想では、単なる半導体生産拠点ではなく、「世界有数の半導体ビジネスエコシステム」を形成することを目指している。半導体の製造だけでなく、応用産業、大学・研究機関、人材育成、DX・GX分野を連携させ、九州全体を巨大なサイエンスパークのように機能させる「イノベーションマルチハブ構想」が特徴だ。台湾・新竹サイエンスパークなど海外先進地域も参考にしながら、地域ごとに分散した拠点を連携させる構想が進んでいる。
また、人材育成やサプライチェーン強靭化、研究機関との連携にも積極的に取り組む。さらに、台湾のTAITRA(台湾貿易センター)やJETRO(日本貿易振興機構)との基本合意書締結により、台湾企業との連携強化や海外企業誘致も推進している。九州を「世界の産業サプライチェーンの中核拠点」として成長させるためには、産官学金が同じビジョンを共有し、継続的に協業していくことが重要だ。九経連も取り組みの中核的な役割を担っていく。
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