生成AIの普及によって、企業の働き方は大きく変わったと語られることが多い。だが澤円さんは、既存の業務にAIが加わっただけで、本質的な変化には至っていないと指摘する。重要なのは、AIを導入することそのものではなく、「何をやめるのか」を決めること。限られた時間をどう再配分し、何に投資するのか。AI時代の働き方改革の本質を聞いた。
| 澤円(さわ・まどか) 実業家。1969年生まれ。日本マイクロソフト株式会社元業務執行役員、元同社テクノロジーセンターセンター長、株式会社圓窓代表取締役、武蔵野大学専任教員。 現在は多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成を行っている。 |
働き方は、実はまだそれほど変わっていない

——生成AIの登場で、働き方の変化をどう見ていますか。
AIが登場してから、皆さんの働き方は何か変わりましたか。AIを使うようになった、という変化は起きています。でも、それは既存の業務にAIが加わった「足し算」にすぎません。AIが出てきたから「これをやめよう」と決めて実行した人や組織は、まだそれほど多くない。実は本質的には、まだ働き方はそれほど変わっていないのが現実ではないでしょうか。
特に日本の場合、解雇規制が厳しく、労働者が強く守られているため、米国のようなAI導入に伴う大規模なレイオフも起きにくい。外的なプレッシャーが少ない分、自分たちで意識的に「変える」と決めない限り、変わりにくいのです。
——澤さんは以前から、DXの本質は「自分のために使える時間を増やすこと」だと語っていますね。
1日24時間というのは、全世界共通の変更不可能なパラメータです。だからこそ、人間が決められるのは、その時間をどう「再配分」するかだけなのですね。
私が働き方のアドバイスの際によく訊くのは、「朝から夜まで何をしていますか」「その中で、自分がいないと絶対に困る仕事はどれだけありましたか」ということです。例えば1日に4本の会議があって、自分が欠席したら何も決まらない会議はどれくらいあるでしょうか。もし1本であれば、残りの3本は「どちらでもいい時間」に使っている可能性があります。AI時代の第一歩は、最新ツールを使いこなすことではなく、こうした「やらなくていいこと」をまずやめることなのです。
「報告」と「連絡」を減らし、未来に時間を使う
——AI時代に、まずやらなくてよい仕事や習慣は何でしょうか。

例えば、私はいわゆる「報連相」のうち「報告」と「連絡」は、かなりの部分が不要と思っています。報告は「過去」に起きたことの共有ですよね。起きたことは、データとして「見ればわかる状態」にしておけばいい。ビッグテックが強いのは、過去の共有に時間を割かず、ダッシュボードを見て全員が状況を把握できる仕組みができているからです。
「連絡」も同じです。チャットなどのデジタルツールで代替できます。私は、極めて非効率なコミュニケーション手段だと感じています。鳴った瞬間に周囲の集中力を一方的に削ぎ、耳と口を独占し、記録も残らない。人間は情報の8割以上を視覚から得ているのに、それを使わない電話は最も効率の悪い伝達手段です。まずはテキストで伝え、必要ならWeb会議にシフトすればいいのです。
AIの前にBIがある——見える化の土台をどうつくるか

——そうした「見える化」には、どのような手法があるのでしょうか。
AIが出てくる前から、ERP※1 やCRM※2 のような仕組みがありました。大きくいうと、ERPは過去のデータ、CRMは未来をつくるデータと捉えることができます。つまり、企業の中で何が起きているのか、過去から未来にかけての事実をきちんと残すための器は、もともと存在していたのです。
※1 ERP:会計、人事、生産、物流、販売などの基幹業務を一元管理し、リアルタイムな経営判断と業務効率化を支援する統合基幹業務システムのこと。
※2 CRM:顧客の基本情報、購入履歴、問い合わせ対応などを一元管理し、良好な関係を築くことで顧客満足度を最大化する戦略やシステムのこと。
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