2026年5月22日(金)に会場+オンラインのハイブリッドで開催された「東北GX産業団地 企業立地セミナー&交流会in東京 ものづくり企業の拠点再編戦略」。本記事では、セミナーで語られた主な論点を紹介します。本セミナーでは、AI時代に日本の製造業に求められるもの、日本企業がイノベーションを起こすために必要な要素、企業の立地戦略について、多角的な視点から解説が行われました。九州や北海道で半導体工場の大規模集積が進む中、「なぜ今、東北なのか」について議論が交わされました。
ダイジェスト動画
※本動画内の発言は出演者個人の見解であり、当社の見解を示すものではありません。
「環境と調和して成長するいわて」
登壇者
岩手県 副知事 佐々木 淳氏

岩手県は県政150周年を迎え、その歩みを支えてきた「挑戦の精神」と「自然との共生」を軸に、持続可能な地域づくりを進めている。東京から新幹線で約2時間というアクセス性を持ちながら、県土の約77%を森林が占める豊かな自然環境を有しているのが特徴。森林や河川を除いた居住可能エリアの人口密度はイギリスやイタリアなどの欧州諸国と同程度であり、自然と利便性が調和した暮らしやすい地域だ。その中で、北上川流域を中心に「北上川バレープロジェクト」を推進し、自然環境と調和したものづくり産業の集積を進めている。特に自動車産業と半導体産業を成長の柱とし、2022年度(令和4年度)には、製造品出荷額が3兆円を超えるまでに拡大した。地域企業との連携を強みとしながら、半導体人材育成施設の整備などを通じて産業基盤の強化を図っている。また、岩手県は脱炭素社会の実現にも積極的に取り組み、温室効果ガス削減や再生可能エネルギーの活用を推進。100%脱炭素電源を活用する新工業団地の整備を進めるなど、環境と経済成長の好循環を目指しており、企業による新たな挑戦への期待も示された。
基調講演①
「なぜ今、製造業は拠点戦略を見直すのか ~世界標準の経営理論から読み解く~ 」
登壇者
早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 入山 章栄氏

日本の製造業は大きな転換点にあり、世界情勢の不安やサプライチェーンの混乱、中国企業の急速な競争力向上、人手不足の深刻化などにより、多くの製造業が厳しい状況に置かれている。一方で、AIの普及は日本の製造業にとって大きなチャンスだ。特に生成AIやフィジカルAIの進展に伴い、半導体、製造装置、材料、データセンター、発電設備などの需要が世界的に拡大している。AIそのものの開発や資金力では米国が圧倒的な優位に立つものの、それを支える製造技術や周辺産業では日本企業が高い競争力を持っており、今後は米国市場を中心とした世界需要を取り込むことが重要だ。
また、日本企業の強みとして「すり合わせ型」のものづくりが挙げられる。自動車産業に代表されるように、ハードウェアとソフトウェア、AIを高度に統合する能力は日本企業の得意分野であり、AI時代には、その価値がさらに高まる可能性がある。テスラやBYDなどの先進企業も、ソフトウェアと製造技術を一体化することで競争力を高めており、日本企業にも十分な勝機がある。こうしたチャンスを捉えるために東北地方に求められるのは、単なる工場誘致にとどまらず、研究開発や経営判断を担う本社機能、スタートアップ、大学などを含めたイノベーション拠点づくりである。
さらに、イノベーションの源泉として「知の探索」と「知の深化」の両立が重要だ。従来日本企業が得意としていた既存事業を磨き込む「知の深化」だけでなく、異なる業界や地域、海外との交流を通じて新しい知識を取り込み組み合わせる「知の探索」を行うことで新たな価値が生まれる。東北には豊かな自然環境や高い技術力、大学などの資源があり、世界中の人材や企業を引きつける拠点となる可能性がある。こうした環境を生かすことで、「知の探索」を通じたイノベーション創出が期待される。AI時代の到来は日本の製造業、そして東北にとって大きなチャンスであり、産官学が連携しながら長期的な視点でイノベーション創出に取り組むべきだ。
基調講演②
「優れた産業集積にはなにがあるのか ~アメリカと台湾に学ぶ拠点戦略に必要な要件~」
登壇者
早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 長内 厚氏

イノベーションには「価値創造」と「価値獲得」の2つのプロセスがある。価値創造とは新しい技術や製品を生み出すことであり、いわゆる発明(インベンション)にあたる。一方、価値獲得とは、その技術や製品を事業化し、収益につなげることである。真のイノベーションとは、単に新しいものを作るだけではなく、利益を生み出して初めて成立する。
日本は価値創造には優れているものの、価値獲得が苦手な傾向がある。例えばリチウムイオン電池は日本発の技術であるにもかかわらず、現在は中国のBYDやCATLが世界市場を席巻している。液晶パネルや太陽光パネル、半導体などでも同様の構図が見られ、日本は技術開発に成功しても利益獲得で後れを取るケースが多い。その背景にはデジタル化の進展がある。製品の価値がハードウェアからソフトウェアへ移行し、機能や性能の多くがアプリやプログラムによって実現されるようになった。ソフトウェアは大量複製が可能であるため、重要なのは「何を作るか」ではなく、「いかに世界中へ普及させるか」になった。アメリカや中国の企業は、この価値獲得の仕組みづくりに長けている。
また、企業経営には「効率性」と「効果性」の両立が必要だ。効率性を追求し過ぎると無駄が排除され、新しい挑戦や試行錯誤ができなくなる。一方で、不確実性の高い時代には多様な選択肢を持ち、探索を続けることが重要。トヨタのEV・水素・ハイブリッドを並行して進める戦略はその好例であり、日本の現場力や試行錯誤を重視する文化は現在の社会情勢において、大きな強みになり得る。
最後に、イノベーションを生み出すためにはオープンイノベーションと産業クラスターの形成が重要だ。シリコンバレーの成功要因は企業集積だけでなく、「住みたい街」であることにある。働く人や家族が地域に魅力を感じることで優秀な人材が集まり、知識や情報の交流が活発になる。今後は地方の魅力を高め、世界中の人材が集まる産業クラスターを各地に形成することが、日本の競争力向上と持続的なイノベーション創出につながるだろう。
トークセッション
「企業はどこに工場をつくるべきか ~半導体時代の立地戦略~」
登壇者(順不同)
早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 入山 章栄氏
株式会社産業タイムズ社 取締役会長 泉谷 渉氏
キオクシア岩手株式会社 代表取締役社長 柴山 耕一郎氏
東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ株式会社 代表取締役社長 両角 友一朗氏

本セッションでは、半導体産業の再興が進む中、日本国内で企業がどこに工場を立地すべきかをテーマに議論が行われた。特に立地選定の条件や地域の競争力、人材育成のあり方について登壇者が熱く意見を交わした。

議論の中心となったのは、「工場立地の決め手は何か」という点だ。インフラや補助金、交通網といった従来の立地条件も重要である一方、現在の半導体産業では何よりも人材の確保が重要視されているとの認識が共有された。最先端の研究開発を強く進めるため、幅広い専門知識をもった理工系人材は欠かせない。加えて、製造装置や材料など関連産業との連携も必要であり、人材と産業集積が立地判断の大きな要素になっていることが示された。

そんな状況下で、東北地域の人材の可能性が注目を集めている。現在、日本の半導体産業は九州を中心に発展しているが、人材不足が深刻化しつつある。一方で東北には、過去から蓄積された半導体・電子部品産業の基盤が存在し、高専や工業高校をはじめとする人材育成環境も整っているという。首都圏への人材流出という課題を抱えてはいるが、優秀な人材が地域に残されていることから、今後の成長拠点として高い期待を持てる。また、企業誘致や産業集積を進めるためには、行政や教育機関との連携が不可欠であるとの意見も多く聞かれた。東北各地では企業による半導体関連の講座や教育プログラムの新設が進められており、産官学が一体となった人材育成の取り組みが活発化している。将来的には半導体に特化した学部や研究拠点の整備も重要なテーマになるだろう。

人材育成の観点では、専門知識だけでなく、ものづくりへの関心や挑戦意欲を持つ若者を育てることの重要性も指摘された。海外経験や異文化との交流を通じて視野を広げることが、イノベーションを生み出す人材の育成につながるとの考えが示され、企業側も地域と連携しながら次世代育成に取り組んでいる現状が紹介された。さらに、物流インフラの整備も重要な要素として挙げられた。半導体製造装置や部材は大型で高価なものが多く、高速道路や港湾、空港へのアクセスが立地選定に大きく影響する。特に東北地域では、今後の産業集積を支えるために物流網のさらなる強化が求められている。

セッション全体を通じて共有されたのは、半導体産業の成長を支えるのは、単なる工場用地や補助金ではなく、「人材」と「地域の魅力」であるという点だ。企業、行政、教育機関、地域住民が連携し、働きたいと思える地域をつくることが、今後の企業立地戦略における最大の競争力になるとの認識が示された。東北地方には大きな可能性があり、日本全体の産業競争力向上につながる新たな成長拠点として期待されている。
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