なぜスマートファクトリーは成果につながらないのか ──「点のデジタル化」を「線のデータ経営」に変える方法

なぜスマートファクトリーは成果につながらないのか ──「点のデジタル化」を「線のデータ経営」に変える方法
小泉 耕二氏
IoTNEWS代表

小泉 耕二 氏

1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。 フジテレビ Live News α コメンテーターなど。 大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。 著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二のデジタイド」がある。

「センサーを付けました」「MES※1 を入れました」「AIのPoC※2 をやりました」それでも、思うような成果が出ない。

※1 MES(Manufacturing Execution System):製造実行システム。工場の生産進捗や作業実績、設備の稼働状況などを管理する。
※2 PoC(Proof of Concept):新しい技術や仕組みについて、本格導入の前に実現可能性や効果を小規模に検証すること。

そんな悩みを抱える製造現場は少なくありません。スマートファクトリーという言葉が広がって久しいにもかかわらず、現場ではいまだに「見える化は進んだが、経営成果にはつながっていない」という声をよく聞きます。

その原因は、個々のシステムの性能不足ではありません。多くの場合、問題はもっと根本にあります。データがつながっていないのです。

センサーデータは現場のダッシュボードにある。品質データはQMS※3 にある。原価や在庫はERP※4 にある。設備ごとの稼働状況は見えるようになったし、工程別の実績も取れるようになった。ところが、「昨日の不良率上昇の原因は、原材料ロットなのか、設備の状態なのか、作業条件なのか」という問いには、すぐに答えられない。

※3 QMS(Quality Management System):品質マネジメントシステム。製品やサービスの品質を安定・向上させるための方針、業務手順、責任体制などを管理する仕組み。
※4 ERP(Enterprise Resource Planning):基幹業務システム。会計、販売、在庫、生産、人事など、企業の主要な業務を統合的に管理する。

現場では、結局、人が複数のシステムからデータを取り出し、Excelで突き合わせ、数日かけて原因を探している。これは「デジタル化」ではありますが、経営判断や現場改善に直結するデジタル化ではありません。私はこれを、「サイロ化されたデータ化」と呼んでいます。

これからのスマートファクトリーの競争軸は、「何を導入したか」ではありません。重要なのは、「どうつないだか」なのです。

工場データは、そもそも同じ形をしていない

工場データは、そもそも同じ形をしていない

スマートファクトリーを考えるうえで、最初に理解すべきことがあります。工場に存在するデータは、そもそも同じ性格を持っていない、ということです。

たとえば、自動車部品の加工・組み立て工場を考えてみます。

設備やPLC※5 から出るセンサーデータは、ミリ秒から秒単位で発生します。異常検知や予知保全には欠かせないデータです。一方、MESのデータは、秒から分単位、あるいはロットや工程単位で発生し、生産実績、進捗、トレーサビリティの基礎になります。

※5 PLC(Programmable Logic Controller):工場の設備や機械を、あらかじめ設定したプログラムに従って制御する装置。

ERPのデータはさらに粒度が違います。日次、週次、月次で扱われ、原価、在庫、受発注といった経営の言葉で記述されます。品質データは検査工程からロット単位で発生し、CO2データは電力計や算定システムから時間単位、月次単位で集計されます。物流データはWMS※6 やTMS※7 から、出荷、納品、輸送イベント単位で発生します。

※6 WMS(Warehouse Management System):倉庫管理システム。商品の入荷、保管、在庫、出荷など、倉庫内の業務を管理する。
※7 TMS(Transportation Management System):輸配送管理システム。輸送計画や配車、運行状況、運賃など、物品の輸送業務を管理する。

つまり、周期も、粒度も、使われる言葉もバラバラなのです。

製造業データの種類と特性

[例:製造業で生まれるデータは粒度も周期も異なるものばかり]

それにもかかわらず、「データを一か所に集めれば、あとはAIがどうにかしてくれる」と考える企業は少なくありません。しかし、これはかなり危険な誤解です。

AIは魔法ではありません。品目コード、ロットID、設備ID、工程ID、時刻の定義がそろっていなければ、AIはデータを正しく突き合わせることができません。違う座標系で記録されたデータを大量に集めても、それは活用できるデータ基盤ではなく、単なるデータの置き場にすぎないのです。

スマートファクトリーに必要なのは、データレイク※8 を作ることだけではありません。工場全体のデータを、同じ時間軸と品目・ロット軸で見られるようにすることです。

※8 データレイク:形式の異なる大量のデータを、元の形に近い状態でまとめて保存する仕組み。

ここが、AI時代のスマートファクトリーの出発点になるのです。

工場データの「共通言語」、UNSを知る

工場データの「共通言語」、UNSを知る

従来、多くの工場では、必要に応じてシステム同士を個別につないできました。MESとERPをつなぐ。設備データをダッシュボードにつなぐ。品質データを分析ツールにつなぐ。こうした1対1の連携は、短期的には便利です。

しかし、システムが増えるほど、連携は複雑になります。ひとつの変更が別のシステムに影響し、どこにどのデータがあるのかも分かりにくくなる。結果として、データを活用するはずの仕組みが、むしろ現場の柔軟性を奪ってしまうことがあります。

そこで注目されているのが、UNS、つまりUnified Namespaceという考え方です。

UNSとは、「工場内のあらゆるデータを共通の名前空間で管理する仕組み」です。もっと平たく言えば、「工場データの住所録を作る発想」だと考えると分かりやすいでしょう。

どの工場の、どのラインの、どの設備の、どのデータなのか。どの品目の、どのロットの、どの工程に関する情報なのか。それらを共通の体系で整理し、必要なシステムやAIが参照できるようにする。

重要なのは、UNSが単なるIT基盤の話ではないということです。これは、工場の共通言語を作るという経営判断なのです。品目コードや設備IDの名寄せ、BOM※9 と工程情報の整合、時刻同期といった地味な作業こそが、後のAI活用の土台になります。

※9 BOM(Bill of Materials):製品をつくるために必要な部品や原材料と、その数量を一覧化したもの。

ここを飛ばしてAIだけを入れても、成果は出ません。なぜなら、AIが本当に価値を出すのは、きれいに整えられただけのデータの上ではなく、意味がそろえられ、業務と接続されたデータの上だからです。

AIは、サイロを壊すものではない

AIは、サイロを壊すものではない

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