ISSBとは?IFRS S1/S2の基準内容と企業の対応手順を解説

ISSBとは?IFRS S1/S2の基準内容と企業の対応手順を解説

企業が環境・サステナビリティに配慮した経営をしていることを投資家に示すために、ISSBという国際的な枠組みがあります。ISSBとはどのような枠組みなのか、ISSBの中に設けられた2つの重要な基準であるIFRS S1/S2の内容を中心に、企業が導入する際の手順や対応のメリットについて解説します。

ISSBとは何か

ISSBとは何か

ISSBとはどのような目的で設立された組織なのでしょうか。設立の背景と合わせて解説します。

ISSB(International Sustainability Standards Board)の概要

ISSB(国際サステナビリティ基準審議会:International Sustainability Standards Board)は、サステナビリティ開示※1 の国際基準策定を目的として、IFRS Foundationによって2021年11月3日に設立されました。IFRSは世界共通の会計基準およびサステナビリティ開示基準を策定・監督する国際的な非営利組織です。

※1 サステナビリティ開示:企業が自社の事業活動に関する環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の取り組みや、それらが企業価値や財務に与える影響について情報公開すること

サステナビリティ開示は、投資家や金融市場にとってますます重要になっています。ISSBは、投資家の意思決定に有用である、高品質で国際的に比較可能なサステナビリティ情報の基準を提供することをミッションとしています。

具体的に、ISSBは4つの主要目的を掲げています。

・サステナビリティ開示の世界的な基準を策定する

・投資家のサステナビリティ情報ニーズを満たす

・企業が世界市場に包括的なサステナビリティ情報を提供できるようにする

・各国や地域固有の情報開示や、より広範なステークホルダーを対象とした情報開示との相互運用性を促進する

従来のサステナビリティ情報は企業によって条件が異なる非統一な開示がなされていました。ISSBは世界的な基準を策定することで、グローバル市場で比較可能な情報への転換を図っています。

参考:IFRS『International Sustainability Standards Board』

ISSB設立の背景

世界的に、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報が企業価値やリスクに影響を与えるという認識が高まっています。この流れの中で、投資家や規制当局から「財務情報と同程度に信頼できるサステナビリティ情報が欲しい」というニーズの強まりもありました。

これまでもサステナビリティ関連の開示指針・基準は複数存在していましたが、基準ごとに対象や評価軸が異なっていました。そのため、企業によって使用する情報開示の枠組みが異なり、比較のしにくさや効率性に課題がありました。

こうした非統一な基準を是正し、比較可能な基準へと統合する目的でISSBは生まれました。ISSBは、G7やG20、IOSCO(証券監督者国際機構)※2 などのバックアップのもとで、IFRS Foundationによって設立されました。

※2 IOSCO(証券監督者国際機構):世界各国の証券監督当局が加盟する国際機関。証券市場の健全性・透明性・投資家保護を目的に、国際的な規制協力や基準整合の推進を行っている。

参考:IFRS『International Sustainability Standards Board』

ISSBの2つの基準

ISSBの2つの基準

ISSBでは、企業が公表する非財務情報であるサステナビリティ関連情報を、株主・投資家が財務情報と同じレベルで信頼でき、比較可能なものにするためにIFRS S1、IFRS S2の2種類の基準を設けています。それぞれについて解説します。

IFRS S1とは

IFRS S1では、

・開示の対象範囲

・情報の関連性や信頼性、比較可能性の確保方法

・開示対象となるリスクや機会の定義

を定めています。つまり、どの情報を、どのようなルールで開示するかはIFRS S1を見ればわかります。IFRS S1に則れば、投資家にとって有用な財務情報の文脈で、サステナビリティ情報を説明できると整理できます。

参考:IFRS『IFRS S1 General Requirements for Disclosure of Sustainability-related Financial Information』

IFRS S1の4本柱

IFRS S1は、サステナビリティ情報の構造を「四本柱」で整理しています。

・ガバナンス(Governance):企業の経営層がどのようにサステナビリティ関連のリスク・機会を監督しているか

・戦略(Strategy):サステナビリティ関連リスクや機会が、企業戦略にどのように影響するか

・リスク管理(Risk Management):サステナビリティ関連リスクの識別・評価・対応プロセス

・指標、目標(Metrics and Targets):開示すべき定量的な指標(例:温室効果ガス※3削減数などの指標)、設定した目標と進捗

※3 温室効果ガス:二酸化炭素をはじめとする、地表から放出される赤外線(熱)を吸収・再放射することで地球を温暖化させる気体のこと

上記4項目をカバーしてサステナビリティ情報を開示することを定めています。

参考:IFRS『IFRS S1 General Requirements for Disclosure of Sustainability-related Financial Information』

IFRS S1のシングルマテリアリティとは

IFRS S1では、サステナビリティ情報の開示対象を、投資家にとって重要性のある項目に限定する「シングルマテリアリティ」という考え方を採用しています。シングルマテリアリティとは、環境や社会的影響の大きさではなく、サステナビリティ関連情報が企業のキャッシュフローや企業価値にどう影響するかに焦点を当てた視点です。

例えば、

・気候変動が製品の生産コストを増加させる可能性

・規制強化で設備更新が必要になる可能性

など、投資家視点で重要な情報を優先して開示するのがシングルマテリアリティです。逆にEU等では環境や社会への影響も重視するダブルマテリアリティという考え方を採用しています。

参考:週刊経営財務『IFRS財団 サステナビリティ報告に関する協議ペーパー」の概要及び我が国の対応』

IFRS S2とは

IFRS S2はS1の原則を元に、気候変動に関連するリスクや機会に特化した「気候関連開示」の要求事項を定めた基準です。ISSBは、S2をS1と合わせて適用することを前提に設計し、気候リスクが企業価値にどのように影響するかを、投資家が理解できるようにしています。

IFRS S2で定められた4つの開示項目

IFRS S2では、IFRS S1で定めた4本柱に関して具体的に下記のような開示が求められています。

1.ガバナンス(Governance):企業が気候関連リスクや機会をどのように管理監督しているかについて開示します。具体的には、以下のような開示を行います。

・気候関連のリスクや機会の監督体制
・経営レベルの責任分担とガバナンス構造
・監視・評価・報告の仕組み

2.戦略(Strategy):企業が気候関連リスクや機会をどう特定し、戦略や財務計画に組み込んでいるかを開示します。具体的には、以下のような開示を行います。

・どのような気候関連リスクや機会があるか
・それらが事業戦略やビジネスモデル、財務計画へ与える影響の分析
・気候関連リスク対応策や機会活用の戦略

3.リスク管理(Risk Management):企業が気候関連リスクや機会をどのようなプロセスで特定・評価・優先付け・監視しているかについて開示します。具体的には以下のような開示を行います。

・リスク識別のプロセス
・評価の方法、指標
・気候関連リスク管理の手順と体制
・全社リスク管理との統合方法

4.指標と目標(Metrics and Targets):企業が気候関連のパフォーマンスを測定・報告するための定量的・定性的な情報について開示します。具体的には以下のような開示を行います。

・温室効果ガス排出量の開示(Scope1, 2, 3※4 )
・気候関連の目標とその進捗(GHG削減目標など)
・業種別の気候関連指標を開示

※4 Scope1, 2, 3:企業の温室効果ガス(GHG)排出量の区分を示す国際的な分類。Scope1は自社が直接排出する温室効果ガス。Scope2は他社が発電した電気・熱の使用による排出。Scope3はサプライチェーン全体の排出

TCFDとIFRS S2との違い

ISSB基準は、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures )※5 をベースとして設計されています。TCFDが2017年に最終報告書で発表した、企業が開示すべき4項目である「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」をさらに発展させたのがIFRS S2です。

※5 TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures):2015年に設立された、気候変動が企業の財務に与える影響を開示するための国際的な枠組み

TCFDとの違いとしては、より詳細かつ財務影響を重視した開示要件を追加した点。例えば、産業別の指標要求や内部カーボンプライシングなど、TCFDを超える情報開示が求められています。そのため、企業がTCFD提言に従って開示していたとしても、IFRS S2の要求事項をすべて満たすためには追加の情報開示が必要になる可能性が高いです。

参考:EY Japan『第 52 章 第 53 章 サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(IFRS S1 号)気候関連開示(IFRS S2 号)』

ISSB基準は誰が対象?日本企業への影響

ISSB基準は誰が対象?日本企業への影響

ISSB基準での情報開示対象となるのは以下のような企業です。

1.上場企業(特に大企業):既にIR情報・財務報告を開示しており、投資家向け情報開示の整備が進んでいる層

2.グローバルに資金調達をする企業:海外投資家からの資金を得るため、国際基準であるISSBに沿った情報開示ニーズが高い

日本では、ISSB基準を基礎とした国内基準の整備が進められており、将来的な制度導入が想定されています。2025年3月5日にはサステナビリティ基準委員会(SSBJ)がIFRS S1、S2を元に開発した確定基準を公表しています。

参考:環境省『国内外の最近の動向(報告)』

参考:SSBJ『サステナビリティ開示テーマ別基準第1号 一般開示基準』

参考:SSBJ『サステナビリティ開示テーマ別基準第2号 気候関連開示基準』

また、金融庁がサステナビリティ情報開示の制度化に向けて設置した「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」によると、

・段階的な情報開示の適用時期を設定する案:プライム市場上場企業を中心に、時価総額等に応じて、2027年ごろから開示を開始

・保証(アシュアランス)の導入案:初期段階ではScope1/2の排出量やガバナンス、リスク管理に限定

上記のように、日本においても段階的にISSBベースの開示導入が検討されています。

参考:あずさ監査法人『金融庁「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ報告」を公表』

ISSB対応の実務6ステップ

企業がISSBに対応するための実務ステップの一例を紹介します。大きく6つのステップに分けられます。

1.IFRS S1/S2の要求項目の整理

まずはIFRS S1/S2の条文を読み込み、各項目が現在自社でどのような開示状況になっているかを整理します。

その上で、経営層向け、各部門向けの説明会の開催、Q&A集の作成を行い、ISSB対応に向けた社内共有を行います。ISSB対応は財務情報と同じレベルで情報開示を行うものなので、初期段階で経理部門を必ず巻き込むことが成功の鍵になります。

2.ギャップ分析(現行情報開示とISSBの整理と比較)

既存の開示情報とIFRS S1/S2の要求とのギャップを分析します。既存の開示情報とは有価証券報告書や統合報告書、サステナビリティレポート、TCFD開示などです。既存の開示情報のままだと、IFRS S1/S2においては情報不足になる部分はどこか洗い出します。

また、IFRSはシングルマテリアリティの視点が求められるため、既存の開示情報を流用できそうな項目でも、「財務に影響する可能性があるか」「将来的なキャッシュフローに影響するか」等の視点で再判定をする必要が出てきます。

3.排出量算定方法を策定し、データ収集の実行

Scope1、2、3のデータ収集や温室効果ガスの排出量算定をどのように行うかを策定し、データ収集を実行します。

例えば、Scope1と2に関しては工場単位のエネルギーデータ収集、電力会社請求書との突き合わせ、排出係数の統一などのルールを決め実行します。データ入力責任者、承認フロー、ログ管理といった事務的なフローも明確にします。

Scope3に関しては、購入品に関して取引先アンケートの実施、輸送を担当したロジ会社のデータ取得、使用段階におけるライフサイクルアセスメント※6 のモデル活用などのアクションを明確にし、データ収集を実行します。Scope3排出量を正確に把握するのは難しい面がありますが、推計方法、仮定の合理性、データ品質レベルに関して明示することで信頼性を高めるアクションを行います。

※6 ライフサイクルアセスメント:製品やサービスの原材料の調達から廃棄・リサイクルまでの全過程(ライフサイクル)における環境負荷を定量的に評価する手法

4.戦略とリスク管理体制の整備

収集したデータを元に、1.5℃シナリオや2℃未満シナリオ※7 等のシナリオ別に売上への影響、設備減損リスク、炭素価格コストなどのシミュレーションを実施します。また、脱炭素の移行計画も明確にします。2030年目標※8 、再エネ比率※9 、技術ロードマップなど、財務との整合性もとれた計画である必要があります。取締役会がどのように関与するかも定めます。具体的には気候リスクを年何回審議するか、KPIは役員報酬と連動するか、議事録にはどのように反映するかなどです。

※7 1.5℃シナリオや2℃未満シナリオ:地球の平均気温上昇を産業革命前と比べて何℃以内に抑えるかという目標に基づく気候シナリオ

※8 2030年目標:各国や企業が2030年までに達成すべき温室効果ガス削減目標

※9 再エネ比率:企業や国が使用するエネルギー全体に占める再生可能エネルギーの割合

5.草案作成とレビュー

IFRS S2で定められている以下4項目に沿った草案を作成します。

1.ガバナンス

2.戦略

3.リスク管理

4.指標・目標

財務諸表と整合した内容になっているかには特に注意が必要です。草案作成後は経理やIR、法務、監査法人などにレビューを依頼します。

6.開示文書への反映

ISSBは原則として財務報告と同期間での開示が求められるため、有価証券報告書のサステナビリティ情報欄へ組み込むのが最適です。また、重要な会計上の見積りとの整合が取れていることもポイントとなります。

ISSB対応のメリット

ISSB対応のメリット

ISSBに対応することで単に枠組みに適合するだけではない経営上のメリットがあります。具体的に3つ紹介します。

海外投資家からの評価向上

ISSB対応によって、企業の開示品質が向上し、投資家がより良い投資判断を下せるようになります。特に海外投資家等、国際的な投資家層からの投資を引き出すなら必須と言えます。

資金調達優位性

ISSB対応によって資金調達面でのメリットが期待できます。具体的には、海外投資家との対話が円滑になりやすい、国際的な機関投資家の投資判断の決め手になる、低コスト資金調達の可能性が高まるといったことが起こりえます。

ガバナンス高度化

ISSB基準は、ガバナンス(取締役会の監督体制)、戦略、リスク管理といった企業の経営体制全体の情報開示を定めたものです。この構造に対応すれば、経営トップの関与が明確になり、リスク管理プロセスが整備され、社内統制と情報開示の整合性が強化されます。つまり、ガバナンス改善効果が期待され、企業の内部管理体制自体の成熟にも期待できます。

ISSBとSSBJの関係

ISSBとSSBJの関係

ISSBを日本向けにローカライズするための機関として、金融庁はSSBJ(サステナビリティ基準委員会)を設立しました。SSBJは、ISSB基準を日本の法制度(金融商品取引法等)に適合させ、サステナビリティ情報を有価証券報告書で開示することを想定し整備を進めています。開示に関する最新情報を入手するために、SSBJの動向を注視しましょう。

ISSB対応は開示対応ではなく経営戦略

ISSB対応は開示対応ではなく経営戦略

ISSB対応をすることで、財務と非財務が統合された質の高い情報を投資家に提供でき、資金調達の可能性が上がります。経営戦略として早期に取り組むことで、他社より一歩先へ進むことにもつながるので、義務化がされる前に積極的に適合しておくことが重要です。ISSB基準を踏まえた制度整備が進む可能性は高く、動向を注視していきましょう。

GREEN CROSS PARKのGX

GREEN CROSS PARKのGX

東急不動産が展開する「GREEN CROSS PARK(グリーンクロスパーク)」は、環境配慮と産業発展を同時に実現することを目指した次世代型の産業まちづくりプロジェクトです。エリア全体で再生可能エネルギーの導入やCO2排出量の可視化・マネジメントを推進し、地域単位での脱炭素化を図ることで、持続可能な社会の実現に貢献します。さらに、多様な企業が集積することで生まれるシナジーを活かし、技術やノウハウの共有・連携も促進。GX(グリーントランスフォーメーション)への取り組みを加速させ、産業競争力の向上と環境負荷低減を両立する拠点形成を目指しています。東急不動産は、「GREEN CROSS PARK」を通じて、環境価値と経済価値を融合させた持続可能な産業エコシステムの構築を推進しています。

GREEN CROSS PARKのGX>>

ログアウト

ログイン