災害時の電力確保や再生可能エネルギーを運用する仕組みとしてマイクログリッドが注目されています。国の施策としても促進されているマイクログリッドについて、その定義や従来の電力システムとの違い、導入するメリット、国内での導入事例等を中心に解説します。
マイクログリッドの定義と従来の電力システムとの違い

マイクログリッドとは、地域単位で電力をつくり・ため・使う分散型の電力インフラを指します。再生可能エネルギーなどの分散型電源と電力需要を一体的に管理し、地域内で発電・蓄電・電力運用を行える点が特徴です。電力の地産地消を実現する仕組みとして注目されています。
従来の電力供給は、火力・原子力などの大規模発電所から、長距離の送電網を用い、一方向で電力供給するという構造でした。この方法は効率性には優れていますが、リスクやデメリットもあります。
代表的なのが
・発電所や送電網が止まると広域停電になる
・災害に弱い
・再生可能エネルギーの変動に対応しにくい
といったことです。
一方でマイクログリッドは、地域内に複数の小規模電源(太陽光・風力など)を配置し蓄電池で電力を調整し、EMS(エネルギー管理システム)※1 で最適制御を行うという構造です。この構造によって、従来にはなかったメリットが生まれます。
※1 EMS(エネルギー管理システム):電力の使用状況や発電状況を見える化し、最適に制御するためのシステム
マイクログリッドのメリット

マイクログリッドは災害時の電力対策としてのメリットが大きいですが、それ以外にも再生可能エネルギーの活用など様々なメリットがあります。具体的に解説します。
災害時のレジリエンス強化(停電対策)
マイクログリッド最大の強みは、災害時でも電力供給を維持できる点です。通常時、マイクログリッドは既存の電力網と接続されていますが、災害時は既存の電力網から切り離し自立運転が可能です。太陽光・蓄電池など地域内の電源を使い供給継続できる仕組みとなっています。病院や避難所、行政機関といった防災拠点の機能維持が可能になるため、国としても「マイクログリッドがレジリエンス※2 強化・BCP※3 対策につながる」としており、企業・自治体双方で導入が進んでいます。
※2 レジリエンス:災害やトラブルが発生しても電力供給を止めない、または早期に復旧できる能力
※3 BCP:地震・台風・感染症・サイバー攻撃などのリスクに備え、企業や組織が重要業務を守るための戦略と具体的手順をまとめたもの
参考:資源エネルギー庁『GXに向けた取組と省エネ・非化石転換について』
エネルギーコストの最適化
マイクログリッドは単なる防災設備ではなく、エネルギーコストの最適化につながります。送電距離の短縮による「送電ロス低減」と分散型エネルギーの活用による「省エネ効果」が期待できます。具体的には地域内発電による電力購入量の削減、蓄電池の活用による電力価格の高い時間帯の使用回避、EMSによる需給の最適制御が実現します。
参考:資源エネルギー庁『GXに向けた取組と省エネ・非化石転換について』
再生可能エネルギーの有効活用
再生可能エネルギーは天候等の不確定要素に依存する面をデメリットとして捉えられますが、マイクログリッドの活用によってそのデメリットを緩和できます。蓄電池によって余剰電力を貯め、EMSによって電力の需要と供給をリアルタイム調整し、地域内消費によって使用する分だけ供給し無駄な電力の発生を抑制することができます。太陽光や風力の利用率向上や電気系統への負荷軽減につながり、安定した再生可能エネルギーの有効活用を実現します。
CO2排出削減(脱炭素対応)
マイクログリッドによってCO2排出量を削減でき、政府の進める脱炭素へ対応できるようになります。再生可能エネルギー利用によって化石燃料依存を低減し、電力の地産地消によって送電ロスを削減、さらにエネルギー最適制御によって無駄な電力消費を削減します。
地域経済の活性化
マイクログリッドはエネルギーの地産地消を前提とする仕組みのため、導入することで地域経済の活性化にもつながります。マイクログリッドを導入することで、地元企業がエネルギー事業に参入し、設備投資・雇用創出が生まれます。また、エネルギー費用の域外流出を抑制し、地域の中で電力を中心とした経済が循環するようになります。エネルギー自給率向上や産業競争力強化、まちづくりとの一体化という効果が得られます。
参考:資源エネルギー庁『GXに向けた取組と省エネ・非化石転換について』
マイクログリッドがなぜ今注目されているのか

マイクログリッドが注目される背景には日本ならではの災害リスクの高さと再生可能エネルギーへの注目があります。マイクログリッドはなぜ今注目されているのでしょうか。
災害リスクの増加
日本は地震・台風など自然災害が多い国です。災害時には電力網の切断等による大規模停電が発生しています。経済産業省は、災害時でも電力供給を維持する「レジリエンス強化」や病院・避難所などの重要施設における電力確保を重要政策として掲げています。マイクログリッドは、従来型の電力系統から切り離して「自立運転」が可能なため、災害対策の中核技術とされています。
参考:資源エネルギー庁『GXに向けた取組と省エネ・⾮化⽯転換について』
脱炭素・再生可能エネルギー拡大
日本政府は「2050年カーボンニュートラル」※4 を宣言し、再生可能エネルギーの導入拡大を進めています。しかし、再生可能エネルギーの活用にあたっては、天候依存による出力の不安定さ、系統への負荷の大きさという課題を抱えています。その点、マイクログリッドを導入すれば、地域内で需給を調整し、蓄電池で変動を吸収する仕組みを実装できます。マイクログリッドは再生可能エネルギー普及を目指す上で欠かせない仕組みです。
※4 2050年カーボンニュートラル:2050年までに温室効果ガス(主にCO2)の排出量を実質ゼロにする目標のこと
エネルギー自立の重要性
従来の日本のエネルギー構造として、化石燃料の多くを輸入に頼っておりエネルギー自給率が低いという課題がありました。マイクログリッドはこの課題の改善に寄与します。太陽光・バイオマスなどの地域資源を活用し地域内で電力を完結することで、エネルギーの自給自足を実現できます。
マイクログリッドの仕組み

マイクログリッドは発電、蓄電、制御を地域内で完結し、通常時と災害等の異常時に運転を切り替えられるのが特徴です。マイクログリッドの仕組みを解説します。
発電設備
太陽光・風力・バイオマスなど、再生可能エネルギー中心の発電設備を地域内に分散して設置します。これを「分散型電源(DER)」といいます。
蓄電池
マイクログリッドでは、発電と蓄電を組み合わせて安定供給を実現する設計が基本のため、蓄電池を設置します。再生可能エネルギーは天候等によって出力が不安定という弱点があるため、蓄電池の役割は重要です。余剰電力の貯蔵、ピークシフト(電力代が高い時間帯の使用回避)、周波数・電圧の安定化を担います。
エネルギーマネジメントシステム(EMS)
EMSはマイクログリッドのいわば頭脳です。EMSは電力の需要予測や再生可能エネルギーの供給予測をもとに最適運用を担います。EMSがあることでAI・IoTと連携したリアルタイム運用が実現します。
系統連系型と独立型の違い
マイクログリッドには系統連系型と独立型という2種類のタイプがあります。
系統連系型は一般の電力会社の系統と接続し、電力不足分は外部から購入、余剰電力は売電可能という仕組みです。通常時には系統連系型が作動しています。
独立型は一般の電力系統から切り離し地域内の電源だけで運用する仕組みです。離島のようにそもそも既存のインフラと接続していない場合や、災害時に作動します。
上記2種類を、マイクログリッドが状況に応じて切り替えて運用します。
電力の需給バランス制御の仕組み
電力は「同時同量(需要=供給)」が原則です。マイクログリッドは、EMSによって発電量、蓄電池の充放電、デマンドレスポンス※5 を行うことで同時同量を実現しています。
具体的には、必要電力量を算出し需要予測、再生可能エネルギーの出力を見積もり発電予測、不足時は蓄電池や従来型の系統から補給、余剰時には蓄電や出力抑制を行うといった動きになります。
※5 デマンドレスポンス:電力の需要をコントロールして、需給バランスを調整する仕組み
参考:電気事業連合会『kW(電力)とkWh(電力量)の違いって?』
災害時の「自立運転」とは
マイクログリッドは「停電時でも独立して電力供給が可能」な仕組みであるため、災害時に力を発揮します。停電や周波数異常などの系統異常を検知すると、系統との接続を遮断し、地域内の電源で供給開始を自動で行います。前述した発電設備、蓄電池、EMSを地域内で全て備えていることで可能となっています。
日本国内のマイクログリッド導入事例

日本国内でも自治体と民間が連携したマイクログリッドの導入例が出始めています。具体的な事例を紹介します。
離島・地方自治体
神奈川県小田原市では複数の公園等に太陽光発電設備や蓄電池等を設置し、災害時はEMSによって電力需要をコントロールし、一定地域内での安定した電力運用を継続する体制を構築しています。
参考:小田原市『地域マイクログリッドの非常時発動訓練を実施』
また、北海道松前町では、災害時に一般の送電網から地域単独の電力網に切り替えた上で、風力発電所の電力を既存の電力網を使用し供給するという体制を構築しています。
参考:東急不動産『北海道松前町で「地域マイクログリッド」の運用を開始』
スマートシティ
また、街自体を自立した電力で運営するスマートシティ型のマイクログリッドもあります。埼玉県の浦和美園第3街区では、全51戸の住宅に太陽光パネルを設置し、一般の電力網ではない独立した自営線によって蓄電池に集約します。その後集約した電力をEMSによりエリアに供給するという体制を構築しています。
参考:一般財団法人新エネルギー財団『令和3年度新エネ大賞新エネルギー財団会長賞【地域共生部門】浦和美園第3街区を核としたスマートシティさいたまモデル構築事業』
マイクログリッドの導入方法

マイクログリッドの導入はどのような流れで行われるのか解説します。
1.現状分析(電力需要・課題)
まずは、地域のエネルギー需給構造を把握します。時間帯や季節ごとの電力需要、病院・避難所などの重要拠点の負荷、停電リスク、災害リスク、CO2排出量などの項目別に分けて調査しましょう。
2.設計(設備構成・規模)
分析結果をもとに、最適なマイクログリッド構成を設計します。発電設備、蓄電池容量、EMSを設計し、通常時の系統と連系するかどうかを決めます。平常時はコストの最適化、非常時は供給継続(レジリエンス)が設計のポイントになります。
3.資金調達(補助金・PPAなど)
初期投資が大きいマイクログリッドの導入には、公的資金と民間スキームの活用が重要です。
国は地域共生型再生可能エネルギー等普及促進事業費補助金(地域マイクログリッド構築支援事業)や脱炭素先行地域支援、再生可能エネルギー導入補助金などを展開し、初期費用の一部を補助することでマイクログリッドの導入を促進してきました。
また、初期投資ゼロで再生可能エネルギー導入が可能な手法としてPPA(電力購入契約)があります。設備は民間企業が保有し、利用者は電力料金として支払うスキームです。
関連コラム:PPA(電力購入契約)とは?企業が知っておきたいGX時代の電力戦略
4.設置・運用開始
設計・資金確保後、実装から運用に入ります。
マイクログリッド導入に関わるプレイヤー

マイクログリッドは自治体、電力会社、民間企業と連携し導入を進める必要があります。それぞれの役割を解説します。
自治体
マイクログリッドの導入には自治体主導の地域エネルギー構築が不可欠です。地域課題の整理、プロジェクトの主導、補助金活用や制度設計に自治体が主体的に関わるかどうかが鍵となります。
電力会社
日本のマイクログリッドは大部分が既存電力網を活用する前提で成り立っているため、電力会社と協力し、既存インフラとの接続を行う必要があります。
民間企業
発電・PPAを担うエネルギー企業、蓄電池やEMSメーカー、都市開発デベロッパー、データ分析を行うIT企業など、様々な民間企業も重要な役割を担います。
地域エネルギーを活用するならマイクログリッド

マイクログリッドは防災・コスト・環境の三軸で価値を発揮する、地域エネルギーの有力な選択肢の一つといえる仕組みです。単なる災害対策ではなく政府の施策と連動しているため、自治体での導入が今後加速することが予想されます。企業としても再生可能エネルギーの活用の可能性を大きく広げるものであり、公的資金等をうまく活用しながら関係各所と連携し、参画や導入について検討することが重要です。
GREEN CROSS PARKのGX

東急不動産が手がける「GREEN CROSS PARK(グリーンクロスパーク)」は、企業活動と環境配慮の両立を実現する次世代型の産業まちづくりプロジェクトです。再生可能エネルギーの導入や高度なカーボンマネジメントを通じて、エリア全体で脱炭素化を推進し、持続可能な産業団地として進化を続けています。また、企業のGX(グリーントランスフォーメーション)やカーボンニュートラルへの取り組みを後押ししながら、再生可能エネルギー100%で稼働する産業団地の実現を目指しています。