新しい解決策は、業界の外にある——イノベーションを生む「越境」と「違和感」【山口周氏インタビュー】

新しい解決策は、業界の外にある——イノベーションを生む「越境」と「違和感」【山口周氏インタビュー】

DXやGXへの対応が進むなか、企業には、効率化にとどまらない価値創造が求められている。山口周さんは、その出発点はまだ言葉になっていない課題や、当たり前への「違和感」に気づくことにあると捉える。企業は、そうした課題をどう見つけ、事業やイノベーションにつなげるべきなのか。企業戦略や組織開発に携わり、人間の知性や感性について考察を重ねてきた山口さんに聞いた。

山口周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。株式会社ライプニッツ代表。
慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン コンサルティング グループなどで、企業戦略策定、文化政策立案、組織開発などに従事した後、独立。複数の企業で戦略・組織アドバイザーを務める。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『ニュータイプの時代』『ビジネスの未来』など著書多数。

まだ見えていない社会課題をどう見つけるか

まだ見えていない社会課題をどう見つけるか

——これから企業が向き合うべき社会課題を考えるうえで、山口さんが特に重要だと感じているテーマはありますか。たとえば、都市や産業拠点、働く場や暮らす場に関わる領域では、どのような課題が見えているのでしょうか。

建設業は、人間が排出するCO2のかなり大きな割合に関わっていると言われます。ですから、なるべく炭素を出さない形でインフラや居住空間をつくることは大事です。

もう一つ、不動産に関して、なぜもっと議論されないのかと思うのが、孤独の問題です。WHOも、先進国における大きな健康問題として精神疾患を挙げています。うつ病や自殺の問題を考えると、とにかく人を孤独にさせないことが重要です。

ところが、マンションなどの住空間ではプライバシーが重視される一方、人との接点をどう生むかという視点は、十分に議論されてこなかったように思います。単独世帯が増えるなか、住環境が孤独を深める一因にならないよう考える必要があります。不動産業として、孤独の問題にどう向き合うのか。これは非常に重要なテーマだと思います。

人と人のつながりを育むGREEN CROSS PARK
東急不動産は、住宅・都市開発において、共用空間や交流プログラムを通じたコミュニティ形成に取り組んできました。GREEN CROSS PARKでも、こうした知見を生かし、そこで働く人同士や、拠点やその周辺で暮らす従業員とその家族、地域住民がつながるきっかけを生み、産業と暮らしが調和する拠点づくりを目指しています。

多くの企業は、すでに議論された社会課題に取り組んでいます。なぜなら、怖くないからです。社会的なコンセンサスが取れているので、「私たちはこれに取り組んでいます」と言いやすい。

でも、まだ誰も言っていないけれど、これは社会課題ではないかと問いを立てることにはリスクがあります。場合によっては炎上するかもしれない。だから怖い。

しかし、最初にアジェンダ※1 を取ることには、大きな意味があります。たとえばテスラ社は、電気自動車という記号を取りました。「EVといえばテスラ」という状態をつくった。すると、他の自動車会社がEVの広告宣伝費をかければかけるほど、テスラのブランド価値も自動的に上がっていく。

※1 アジェンダ:企業や社会が取り組むべき課題や問い。ここでは単なる会議の議題ではなく、「何を重要な問題として設定するか」という意味で使われている。

強いブランドをつくるには、アジェンダの旗を取ることが重要です。環境問題に熱心に取り組んでいる会社といえば、パタゴニアが出てくる。それも、早い段階でラディカルなことをやり始めたからです。

まだ誰も言っていないけれど、近い将来大きな問題になるのではないか。そうした問いを見つける余裕が、企業には必要なのだと思います。

社会課題は、本業で解くべきもの

社会課題は、本業で解くべきもの

——では、企業は見つけた社会課題に、どのように向き合うべきなのでしょうか。理念や社会貢献にとどめず、事業性と両立させるには何が重要だとお考えですか。

両立というより、社会課題を解決するのが事業であると私は考えます。

日本企業の場合、SDGsが掲げる17目標に沿って、本業と直接関係のない社会貢献活動に取り組んでいるケースもあります。しかし、本業で社会課題を解決し、利益を出して税金を納めればよいのではないかと思います。

企業が自分たちの本業と関係のない領域で社会課題を解決するよりも、納められた税金を使って、その分野のプロが取り組んだ方がうまくいくこともあります。経済学者ミルトン・フリードマンが提唱した「フリードマン・ドクトリン」※2 は、企業は利益のみを出せばよいという受け取られ方で評判が悪いですが、私はそこには一理あると思っています。

※2 フリードマン・ドクトリン:米国の経済学者ミルトン・フリードマンが唱えた、企業の社会的責任は法やルールの範囲内で利益を最大化することにある、という考え方。ここでは、企業が本業で利益を生み、税を通じて社会に還元するという文脈で言及されている。

彼が言っていたのは、社会課題の解決は大事だからこそ、プロがやった方がよいということです。企業は利益を出して、パブリックサービスにその利益を預ける。そう考えれば、企業が本業と関係のないことを思いつきでやるよりも、もっと上手にできる人がいるのではないか、という問いは必要です。

つまり、企業に問われるのは、「社会課題に取り組むかどうか」ではありません。どの課題を自分たちの本業として引き受けるのか。そして、その課題に対して、自分たちだからこそできる解決策を出せるのか。そこが重要なのだと思います。

DXは、既存業務を機械に置き換えることではない

DXは、既存業務を機械に置き換えることではない

DXに取り組む企業では、既存業務の効率化やデータ活用が目的化してしまうケースもあります。企業がDXを進めるうえで、まず問い直すべきことは何でしょうか。

大事なのは、今ある業務をどうデジタルに置き換えるか、という発想をいったん手放すことです。テクノロジーがある時代に、ゼロから同じ事業を設計するとしたらどうするか。まず、そこから考えた方がいい。

たとえば、戦後日本のイノベーション100選に自動改札が入っていますが、私はあれが本当にイノベーションなのか、少し疑問に思っています。

ヨーロッパの一部には、そもそも改札がない駅もあります。車内でランダムに切符を確認し、持っていなければ高額な罰金を科す。さらに今であれば、GPSを使って、どこで乗ってどこで降りたかを記録し、後で精算することも技術的には可能でしょう。

ところが日本では、もともと人が改札をしていた。その作業を機械に置き換えようとした結果、自動改札という発想になったわけです。しかし本来、構造を変えるのであれば、そもそも改札という仕組みが必要なのか、公共空間と駅構内を分ける必要があるのか、というところから考えるべきです。

DXも同じです。今ある業務のどこを機械やデジタルに置き換えるかから考えると、既存の仕組みを前提にした改善にとどまりやすい。そうではなく、テクノロジーがある時代に、ゼロからこの事業を設計するならどうするか。その問いから始めることが、本当の変革につながるのだと思います。

イノベーションは、越境と違和感から生まれる

イノベーションは、越境と違和感から生まれる

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